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「ほんと、兄弟揃って度胸タフなんだからな」
帰り道、そのまま学校に戻るのが勿体無いとマナブに嫌々連れまわされたスズヤは公園のベンチにて缶コーヒー片手に、マナブな話し相手となっている。
嫌、相手が一方的に語り出す現状。聞き相手と言った方が正しいのか。
「さっきから敬語使って無いけど、俺お前よりも2歳年上なんだけど」
「そりゃ、兄貴と同い学年で俺より年下だったら逆に驚くわ」
隣には空を眺めながらだらしなくベンチに寄りかかるマナブ。黒風白雨のメンバーをまじまじと見ることは兄のリクトであっても、あまりない。
彼の隣に座っているのは場違いで、なぜ座っているのか問い出せば、出しゃばったスズヤに全て責任があるのだから、誰にも文句は言えまい。
先ほどから、年配の通行人は白い目、若い女性は指を指す。青メッシュの色男と白い髪赤瞳のスズヤが並んでいるのだ。何もせずとも目立つ、何をせずとも避けられる、何もせずとも女子の目が集まる。
スズヤにとって、とても居心地が悪い時間であることは間違い無い。
「それにしても、真面目君も暴れたらなんて今頃学校中騒いでるだろうな」
ケラケラ笑うマナブ、笑い事でないスズヤ。
兄いれば弟もと噂になることは間違いは無いのであろうが、それが優等生で見た目で目立っていたスズヤならなおさら大事。
噂だけならまだいい。先生もスズヤに対する見る目が変わる。まあ、後片付けが黒風白雨ならいくらでも言い訳のしようがあるが。
「てか、さっさと戻った方が……」
はやくこの場を立ち去りたいスズヤはそっと提案を持ちだすが、「あー俺はパス。喧嘩疲れるし好きくない」なんて言い出すものだから、思い通りに事が動かない。
この人は何故このチームにいるのだろうか。
喧嘩が好きで無いのに不良をする意味などスズヤの脳内では理解不能。安全に日々を過ごした方が身のため、火の海に自ら入り込む必要性を感じられ無い。だが、この男にはそれらが必要なのであろう。
人は利益で動く生き物なのだから。
「ぶっちゃけ幹部はもう一人いる、リクトは化け物だからあの程度なら俺なんて不用」
「さっきから、乱暴な指揮者相手に伴奏者のあんたが皆んなをまとめてるイメージがあるんだが」
「弟君、面白い例えするな」
ははっと笑いながらマナブは「お前、詩人みたいだな」と言って見せた。
スズヤ自身、我ながら少しくさいセリフだとは思ってはいる。だが、別に気にする必要は無かった。
そもそも彼らは全体的に生きる時代を誤った人間たち、多少痛い言葉であっても彼らの前では中和される。
そんな中二病臭い、詩人気取りの台詞に、マナブは頬を上げながらそっと「でも、その答えは間違い」と付け足した。
「うちは伴奏者はリクト、指揮者はいない。皆んな音がバラバラ」
確かに言われてみればそんな気もした。
兄であるリクトは直ぐ手が出たのに対し、マナブはその場にいながら加勢せず、今も帰らぬ。波長が合ってないのか、それとも根本的な考え方が合わないのか。嫌、多分"どちらも"であろう。
「俺は伴奏者じゃ無い。どちらかと言うならスカウトマン? マネージャー?」
「嫌、俺に聞くなよ」
そもそも、スカウトマンとは何をスカウトして来るのか。喧嘩が強そうな人間および気に入った人間をお前が選び、黒雨白風に入れるのかと口を出しそうになるが、自身の考えたが正しい答えなんだと気がつき、口をつぐむ。
あたりで有名な黒雨白風が少人数制のチームである理由がこの言葉により違和感が無となるのだ。
有名になればなるほど、人は集まる。だが、その中間に壁さえ作れば人の出入りは少なくなるのだ。
「まぁ、指揮者役を幹部に入れたいとは思ってはいるよ、抜擢な人間学校内で見つけるのに苦労した」
"苦労した"と言うのだから、目星は付けているのであろうが、黒雨白風に目をつけられるとは、中々の悪運の持ち主であろう。
「指揮者ってまとめ役だから、こっちの回転と歯止めがきかなくなったリクトを止められる万能野郎じゃ無いといけないからな」
マナブは自身の頭をコツコツ人差し指で当てては「うちの学校これ悪い奴多いから」と言ってきたのだが、撤回も否定も出来やしない。
ただ、スズヤの意見としては頭の回転と勉強出来ると出来ないは無関係。探せばいくらでも我が校でも見つかるであろう。
ただし、リクトが関われば話しは別。
リクトを止める事ができて、頭の回転が優れてる。そんな万能人間校内にいたであろうか。いささか疑問点が残る。
「さて、もうそろ戻るか」
そんなスズヤが抱く疑問など知りもせず、マナブはベンチから力一杯立ち上がると、大きく背伸びをしてみせた。
下から彼を眺めているせいか、身長差を感じてしまう。試しにスズヤも追いかけるかのように立ち上がったが、身長差は残ったままで縮まら無い。世は不公平の塊である。
「弟君は今日は帰ろよ」
「帰らない」
「真面目だな」
真面目どうこうでなく、単にバイト先が学校付近であること、またバイトまで時間があるが為、学校に戻るのだ。
スズヤは別に好き好んで学校に行ってるわけでは無い。帰れるなら帰りたいし、勉強もテストだって嫌い。ただ、将来見つめて学校に通い、勉学をしているだけの話し。
大学だってレベルの高い所など興味無いし、安定した職につけるだけのレベルがあればいい。別にそんな変人極めて無いし、貫いて無い。
そんな厄介なイメージをぶつけてくるマナブが「あぁ、そうだ」何か思い出しましたわと言いたげに両手を大きく大袈裟に叩き、棒読みで、わざとらしい演技をする。
もし彼が演劇部に入部したのならば、裏方に回される才能の持ち主。役を貰えたとしても木の役。
そんな丸わかりの怪しげな行動をされて、乗り気になれるほどスズヤは馬鹿では無い。嫌な顔を精一杯作り上げなが「なに?」と一言を投げつける。
「連絡先教えと欲しいんだが」
想定外でありきたりな一言、スズヤから流れる殺気混じりの空気が一瞬で変わるのが肉眼でも伝わる。
今まで連絡交換した経験など無いスズヤは、赤い目をぱちくりぱちくり「なんのことを言ってるんですかね」という間抜けな面を作り上げてしまったゆえ、マナブは「れ、ん、ら、く、さ、き!」とありったけの声で強調してきた。
「嫌、聞いてどうするんだ?」
「近々、俺に助けの電話するだろう?」
「なんで俺が窮地に立つ前提なんだよ!」
他にも何か言ってやろうかと考えたが、低レベルなやり取りが非常に馬鹿らしく、また面倒くなってきたスズヤ。ため息混じりで歩き出し、缶をゴミ箱に通り際に恨み晴らすかのよう力一杯投げ捨てる。
その後と言えば、「冗談!」「怒った?」「謝るか連絡先教えて!」などと学校に着くまで散々と繰り返され鬱陶しい男であった。
学年が異なるために肩を落としながら教室に向かうマナブを「さっさと帰れ」と言わんばかりの顔で見送り、やっと鬱陶しい人間とおさらば出来たかと思えば、マナブの言葉通り既に事は綺麗に片付いており、また案の定スズヤは噂の的となっていた。
放課後は先生に呼び出され、問いただされ。バイトにも遅刻し、また怒られ。足首には湿布だらけの顔に傷だらけでバイトは帰され。
はっきり言うのであれば一年に数回訪れる、散々な厄日であった。
少し余談ではあるが、マナブとは"鬱陶しい男"では無く、"鬱陶しすぎる男"。
彼はあろうことか、放課後はもちろんバイト先まで「連絡」と言いながら付いてきて来たのだ。
何故、そこまでこだわってるのかなど理由なんて知るはずも無いが、家まで付いてくる信念に疲れ果てたスズヤが渋々降参し、結果的に連絡先を彼に教える形となった。
これが後の人生に大きく左右する。
何故、連絡先を知りたがっていたのか。また、スズヤを巻き込んだあの事件のきっかとは。金髪の男が言っていたリクトに関するあの台詞の意味とは。
「そういえば、今年おみぐじ大凶引き当てたよな」
今はまだ彼は一般から外れただけの変わった少年。
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