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「内容は?」
「なんか、呼び出しみたいだった」
「呼び出しね……」
「マー君、なんかあんたを巻き込んだこと気にしてるみたいだから、少しの罪滅ぼし?」
スズヤは「ふーん」と何気なく鼻から息を通すように言って見せた。
つまり、スズヤの代わりに足を運んだが、帰ってこないと伝えたいのであろう。
だが、ここで出てくる問は、喧嘩でスズヤに呼び出したところで、性格上、スズヤは読まなかったことにし、行くこと無いであろうと読めたこと。
ならば、彼が代わりに行く理由として上げられるものは何か。ヒントとなるものは先ほど何気なく言ったアスカの言葉であろうか。
「流石に時間がビュンビュン過ぎすぎてるから俺めちゃくちゃ心配で……」
「はっ、自業自得だな。 勝手にやってろ」
「マー君がどーなってもいいの!?」
「それぐらいで負け犬になるようなら、ここにいる価値はねーし、そもそも足を入れすぎたあいつが悪いんだよ」
アスカが「リッ君ひどい……!」とガルガル喉を鳴らしはじめた。リッ君とはリクトの事であろうが、また可愛らしいあだ名だこととスズヤは黙って仲間割れを眺めている。だが、それも時間の問題であろう。
彼は今回ばかりは自身から身を投げ、口を出す気なのだから。
「元はと言えば、リッ君の弟の呼び出しだろ! あいつの問題でマー君が……!」
「だから、なんだ?」
「だからってなんだよ!」
「尾取り込み中失礼」
二人の間で波乱がおき、歯止めが効かなくなる前にスズヤが間に立って、静かにアスカを見つめた。
赤い目からは恐ろしさすら覚えるその殺気に、幹部というトップの立ち位置に立つアスカすら一瞬唾を飲み込む素振りを見せる。
「な、なんだよ」
「ヤクザと手を組んだ兄を持つ、他校の金髪の男知ってるか?」
「え、寅男の弟のこと?」
一風変わったその名前に「寅男が本名なら驚きだな」と考えながら「そいつがよくたまる場所とか知ら無い?」と口走った。
アスカはあまりにも予想外な質問に「え?」と放ち、リクトからは怒りに近い、低く野太い「おい」が辺りに響いた。
「これは黒風白雨の問題であって、てめーが関わる義理はねーんだよ。何時からそんな正義感の強いキャラに変わったんだ」
「俺じゃ無くて、あんたやあんたの幹部が勝手に変な正義感に浸ってるんだろ」
理解がまだ出来ていないのか、リクトは目で伝わるほど怒りのゲージを上げて行き、そんな怒りの発端であるスズヤは「勘違いするな」と赤い瞳をギラつかせ、一歩、また一歩と少しずつ彼に近ずく。
「胸糞悪いんだよ、自分から敵陣に乗り込み、二度と俺のところに来る事の無いように仕組むあたり」
そう、彼が一人で乗り込んだ理由として考えられるのは交渉。何故かって問われれば単純なこと。自身に二度と火の粉が来る事の無いように。
大人数で乗り込めば、薄くなる言葉に信用など生まれ無い。また、呼び出しがかかると言う真実の裏には、今後もスズヤを狙い続けるという意味合いがあった。
だからこそ、彼はスズヤが行かぬと知りながら一人で乗り込む必要があるのだ。
「俺の為に? 罪滅ぼし? 罪悪感? ふざけるな。そんなもの俺はもとめて無いし、"最後まで責任"も持て無いくせに、俺に与えようとすんな」
意味深な言葉に置いてけぼりの犬っころと、言葉の意味に心当たりがある鴉は眉が微量に動いた。
何故、アスカが反応せず、彼が反応したかと問われれば、答えは一つ。彼がおなじ血を分け与えられた"兄弟"だからであろう。
その後、「後な……」隙すらを与えず、話を終わらせる素振りを見せつけない彼の声は、音量を少しずつ下りを見せつけ、なのに何故か言葉の鋭さは増していく。
赤い瞳は何一つ笑ってはいない。だが、口元は白い頬を上げ笑顔を見せる。それは、まさに人形が人に見せる心の無い空っぽの笑顔。冷房など無いはずの教室一面に冷気が走っていた。
「この際はっきり言わせてもらう。あんたはここ数日、下手くそなりに必死になろうてしてるみたいだけど……」
リクトの目の鼻の先まで歩いて来たスズヤは、身長差のあるリクトの耳にむかって背伸びをし、小さく呟いた。
口元だけの笑顔は兄の傷に塩を塗り、また弟の傷口をえぐるり取る。残酷な過去の傷跡は今も消えることは無いのであろう。
『俺に家族はいない』
スズヤは単調で短いそれだけ伝えては、リクトに背を向けた。黙り込むリクトに目もくれず、「金髪がよくたむろってる場所教えろ」と話が読めない呆然としていたアスカの襟首を掴んでは乱暴に出入り口まで引きずりこむ。
彼がそのような言葉に走った理由はリクトの行動によるものであった。
リクトはスズヤが黒風白雨に入れたいというマナブ提案を何故か必要以上に拒み続け、今回に限っては、仲間であるマナブを助けに行くことを不自然に拒んだ。
そして、スズヤの身の守り方に腹を立てたり、最近は不思議と話しかける回数が増えた。
何を考え、何を思い、何を感じたのかは理解できない。だが、彼は彼なりに兄を演じようとしたのであろう。
そんな考え事を頭中で繰り返して行くうちに「忘れてた」と何かを思い出したスズヤは、ドアまで来た所であろうか。「放せ、放せ」と首輪を付けられている犬のように暴れるアスカを手の内から解放し、ゆっくり後ろを振り向いた。
「確かこれは黒風白雨の問題で、俺が関わる義理が無いんだったよな?」
スズヤは呆然と立っているリクトの瞳を逃さず捉え、「なら、俺ここに入れろ」と兄の願いを踏みにじる戦線布告を投げつけては、その場を後にした。
多分、振り向いた事で見えてしまったリクトの"あの"表情を、スズヤは一生忘れることが無いのであろう。
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