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「母さん、スズヤも連れて行ってよ」
「あの子はお外に出たら駄目なの」
「だって、今お日様は沈んだよ」
「それでも駄目」
5つの小さな少年の目には常に三人の家族が写り込んでいた。駄々をこねる兄に、自身を気味がる母、見向きもしない父。
見慣れた風景、見慣れた行事。
昼間は小さな少年にとって害であるが、夜は彼に適する環境。だからこそ小さな少年は気づいていた、母は自身と歩いてる所を他人に見られることを嫌っていること。
「いいよ、僕は家にいる」
だからこそ無理に引き止めない、甘えない、泣かない、わがままを言わない。5つにしては利口で頭の回る子であった少年は泣きたい気持ちを押し殺しては笑顔を必死に作り上げ、駄々をこねる兄を静める。
「本当に行かなくていいの?」
「うん」
「スズヤの大好きなオムライス食べに行くんだよ?」
「うん」
少年の言葉に納得のいかない兄は「本当にいいの?」と何度も繰り返すが、少年は笑顔で「うん」と返すだけ。それ以上発展することは無い。
そんな子供達に痺れを切らした母は「あの子もああやって言ってるのだから」と無理矢理二人の間を裂ける。
何時もの事、日常なのだから。
そう言いかせながら少年は三人家族のお出かけを笑顔で見送ろうとするが、そんな彼に追い討ちをかけるかのごとく、居間の扉が閉まる寸前「あるもので適当に夕飯済ませなさい」と母は少年の名も呼ばす、投げかけた。
三人の気配が消えると同時に自身の視界がぼやけていくのを感じた。
何度目だろうか。数え切れないほど寂しく辛い思いをし、数え切れないほど泣き叫んだ。
先週は動物園に行ったらしい、動物園ってどんなところだろうか。先々週は海に行ったらしい、海ってどんなところだろうか。その前の週は……。
兄だけは知り、自身の知らない世界。
物心ついた時から少年は家から出た事が無い。自身が醜い存在だから、外に出ただけで恥だから。
こんな体で生まれなければ、とどうにもならぬ考えを毎日毎晩、四六時中考えていた。
泣き叫ぶ一人ぼっちの少年は自身居場所を知らない、名前すら忘れかけている。母は母ではない、父は父ではない。残酷な世界で自身を愛せず、誰も自身を愛さず、いつの間にか恐ろしさに自身から歩む事を諦めてしまった5つの小さな命。
少年の体が枯れるまで後何ヶ月……。
少年の笑顔が枯れるまで後何年……。
少年の涙が枯れるまで後____。
少年の心が枯れるまで後____。
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