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そんな感じにて、必然的にハワイに行くこととなった夏休み前最後の三連休。
海の日と名前を付けられている三連休の最終日が嘘とならぬハワイ旅行。
メンバーは言わずとも伝わるであろうが、飛行機内に座っているメンバーは隣にリクト、後ろの座席にマナブとスズヤが座っている。
「スズヤ、何で上下長いの着てきてるの?」
「紫外線対策」
マナブは「あ、察し」と理解ができた様子でそれ以上「なんでか」とは聞いてこなかった。
今からハワイ行きます感が滲み出ている彼ら三人と引き換えに、白く薄いボーダーのワイシャツに、黒いロングパンツ、ポケットにはサングラスを常備し、リュックサックには折り畳み日傘に日焼け止めなど紫外線対策万全で現れた彼に「てめーは女か」とリクトに言われるが、仕方の無いこと。
「ハワイは日本の6倍の紫外線らしい」
「無対策ならスズヤ倒れそうだよね」
なんの話をしているのやらと理解のできない二人の男達。一人は「紫外線ってスマホについてるやつ?」それは赤外線とツッコミを入れたいほど訳のわからないボケをかますアスカに、子供のように機嫌を損ねてるリクト。
そんな二人にマナブは「これからスズヤもいるんだから知って損は無いぞ、特にリクトはな」と表情こそは見えやしないが、大方ドヤ顔をかましてるのであろう。
「アルビノって言うのはメラニンの遺伝情報の欠損によってメラニンが作れない遺伝子疾患。日本だと先天性白皮症だとか、先天性色素欠乏症や白子症などの呼称があるね」
スズヤ本人以外の人間は、マナブの言葉が呪文のように聞こえているのであろうか。アスカは「メラニンってメレンゲの仲間?」と言い出すと始末、リクトは眉間にシワを作り上げ「はぁ?」と呟いていた。
「わかりやすく説明すると、通常体は瞳、肌、毛を黒くして日の光から守ってくれる。だが、スズヤには黒くする機能が生まれ持ち無いために、日の光に弱い」
理解しているのかしていないのかすら危ういアスカは「なんか、かっけー!」と騒ぎ出し、リクトは力入れていた眉を緩め、そっぽ向く。
内心アスカであれば話わかるが、兄に対してはどれだけスズヤに今まで関心が無かったのか問われてる問題。現在は状況も変わり、彼の心境がどのようになったか知らないが、少なくとも再会時は無関心だったこと答えが出ている。
「あんた、きちんと調べたんだ」
「調べたと言うか、小6の時に親父が呟いてるのを偶然聞いてね」
アルビノをあそこまで調べ上げている父親とはまた変わり者。そして、その呟きを覚えているマナブもなんたる記憶力。
最近、スズヤは彼が頭が悪い訳では無いことに薄々感付いている。単に極度の勉強嫌いで、勉強することを拒んでいるのだと。
テスト時はほぼ睡眠時間、授業中は生徒との遊びの時間、彼にとってそれ以下でもそれ以上のものでは無い。
スズヤにとって勉学とは、見えない未来の為の蓄え。だがマナブにとっては勉学=未来では無い様子である。
「ほら、そんな話ししてる間にハワイに着きそうだよ」
スズヤは備え付けのミニテーブルに肘をつきながら、窓から見える海に「初めての海がハワイか……」なんて心の声がポツリと口から落ちれば「はぁ? ちっせーころ何度も海もハワイも行っただろ」と、自身の記憶と食い違いが生まれたリクトはつかさず乱入して来た。
「それは兄貴と母さんと父さん三人だけ。俺は小さい頃から家から出たこと無いし」
リクトは少し言葉を失った後に「そうだっけか、覚えてねーな」とワントーン下げてからそっぽ向く。
彼も自身と弟の差などとっくの昔に気がついているであろう。母は自身と歩くことを拒んだ故、外食や外泊など行った試しもなく、自身は恥じそのものと保育園すら通わせてもらえなかった現実。
そんな彼のことなど知りもし無いアスカが「スズヤン、昔から日陰っ子だったの?」とアスカワールドで語り出してくるので、一々相手にしてられないスズヤは言葉を受け流し、「あー、海って本当に青いんだなー」と考えながら黙って外を眺める。
それからかんぼもたたないうちに、さらに不可解な行動がスズヤを襲う。
先ほどの会話で何を思ったのか、マナブが後ろから乗り込むように彼の白い髪の毛を乱暴にわしゃわしゃ始めた。
スズヤが「何?」と聞けども「なんでもない」と撫でまわしてくるので、流石に鬱陶しく思ったスズヤは腕を掴み、手首を力一杯逆にひねる。
流石に痛みを感じたのであろう。「いだだだた!」となんとも間抜けな声でマナブは腕を引っこ抜く。
「護身術使う場所間違えてるから……!」
「別に間違えてないけど?」
そんな他乗客から見れば異様な空気を放つ、悪ふざけで盛り上がっている四人に対して、時間は空気読むように着陸時に使用されるシートベルト着用のランプが付き、女性のアナウンスが流れる。
ハワイなど実感すらしない旅行。ましてや、隣に兄がいる状況など、引越し当初思いもよらなかったであろう。
日本から遠く離れた二泊三日の旅行。長くも短い期間で悪運強しスズヤは、良くも悪くも様々な体験をすることとなろう。
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