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寝苦しい暑さの中で、冷んやりと額を潤す物によって目を覚ませば、既に日は落ちて、辺りは暗闇に満ちてる。
耳鳴りのように響くアスカのいびき、部屋に奏でる時計の音、皆の体温を守る為に働くクーラーの風。
そして、目線を横に変えればマナブの顔。
在り来たりな日常の中で一人、あの後の記憶が綺麗に飛んでしまっていることに気がつく。故に、リクトとの言い争いは夢だったのだと自身を説得してみせたのだが、赤く腫れ上がった手首の跡を見てしまえば、願いも虚しく消えていく。
「ごめん、起こすつもりは無かった」
アスカを気遣って小声で話す彼に「別に大丈夫」と伝えれば、見慣れた笑顔はスズヤを見守るようにベッドの上に肘をつく。
「今何時なの?」
「夜中の一時ちょっと過ぎ」
そんな時間まで寝てたなんてと、まだ眠っている頭に腕を回せば動き出す思考回路。数時間前の出来事が記憶ある限り隅々まで巻き戻し降りかかる。我に返って起き上がれば、部屋着に着替えさせられ、腫れ上がった足に包帯が巻かれていた。
それを確認すると、起き上がる時に発生した大きな振動が響き、突然腰に激痛が走り、思わず「いっ」と声を上げてしまう。外部から受ける痛みには慣れているが、内部から受ける痛みには慣れていない正直な体。
何故、腰に痛みが走るのだろうか。確かに兄の悪戯で指は入れられたが、腰に激痛が走るほどの衝撃を与えられただろうか。
顔を歪ませながら必死に考えてみたが、記憶が無い以上、真実を追うことは出来まい。
そんな姿を見せられ、心から心配するマナブに口が裂けても「兄と行為してしまい」なんて言える訳も無く、適当に誤魔化してみる。
だが、この男は他の二人とは異なり、頭も回り、勘すら鋭い。何かを察したのか困った表情の後に「夕食どうする?」と内容を変更してくれた。
「一応サンドイッチ買っておいたけど」
弱い体に降りかかった地獄の一日に、疲れ切ったスズヤはうつらうつらと目が閉じたり開いたりを繰り返しながら「……もう少し寝てたい気がする」の一言。
そんな子供のような行動にマナブは「そっかそっか」と頭をくしゃくしゃに撫で回しはじめたので、ふとマナブに対して一つ疑問が生まれた。
動かない脳内に警戒心なんて無く「聞いていい?」と迷い無く問いかけた。
「あんた、何でそんなに俺のこと目配るの?」
「え、何が?」
「いくら友達の弟だからって、普通は赤の他人にここまでしない」
彼との出会いを思い返せば、命令だからと言ってわざわざ保健室では無く病院へ運んだり。スズヤが危険だからと黒風白雨に入れようと考えたり、スズヤを庇うために好きでもない喧嘩を味わい、痛い思いしながら敵陣へ乗り込んだり。スキンシップも人一倍多くて、寝ているスズヤが倒れたからと軽食の準備など抜かりない。
有難い手助けも、迷惑であった手助けも。短い間に数え切れないほどに与える彼。その姿、とある男と重なる部分があった。
スズヤは消えていく声の中で必死に言葉を探す。
「兄弟みたいな行動」
視界が少しずつ暗転していく中で、マナブの細く大きな瞳に、どこか見覚えがある気がした。毎日見る顔、毎日出会う顔。スズヤは「顔もなんだか似てる気もするし」と小さく呟いた。
以前から彼と自身は似てる部分が多いと感じてはいた。性格は違えど、頭の回転や、感の鋭さ。だが、いざきちんと彼の顔を観察してみれば顔も同類。マナブとリクトを足して割二すればスズヤの顔になると言ってもあながち間違いで無い。
スズヤは無の世界に飛ぶため、瞳を閉じた。
今日は何時に増して兄弟との衝突が激しく、無意識に意識しているだけだと、そんな軽い気持ちのまま夢の中に。
「鋭いと言うか……なんと言うか」
世界は広いようで、狭い。知ってる世界は少なく、知らない世界は多い。全ては導かれ、導き、そして複雑に絡み合っていく。
その後に放った彼の一言なんて彼には知らず。
そして、彼の感情なんて全く見えず。
「変なところは親父に似ちゃって」
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