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十三となる一匹の柴犬は怯えていた。
幼い彼は、押入れの奥底で歯をガタガタ震わせ、外の雑音と悲鳴に耳を塞ぎ。
失うことの恐れ、奪う者の顔を見ることの恐怖。
頬に大粒の涙を流し、現実逃避をしてみるも、襖の光によってそれは絶望へと導かれる。
目の前には柴犬と同じ茶色い髪の毛を持った寅が影となり、そして少年を見つめていました。
頬には赤く色つく返り血の紋章、冷たい眼差し、手には血濡れたナイフ。
「に……いちゃん」
普段からきゃんきゃん騒ぐ彼も、状況により飲まれる。必死に喉を開くが、声が上手く出てこない。
元気は何処かに消え去り、くりくりした大きな黒目は歪んでゆき、歯をがたつかせ。それはまるで、この世の終わりを迎えた少年のよう。
「おい、寅男。そっちにガキはいたか?」
柴犬は唾を一つ飲み込んだ。
寅に肉を引きちぎられ、毛皮を売られ、最後には骨と化して全て自身は死ぬのだと少年は覚悟した。
一筋の輝きが少年の額に流れると、柔らかい右肩から血が流れ、鋭い痛みが走る。息苦しく、酸素が入り込まない、心も体も悲鳴を上げている。
「あぁ、ちゃんとやっといた」
「そうか、サツが来る前にさっさとトンズラするぞ」
そんな会話が聞こえ、恐る恐る顔を上げれば寅の瞳は笑い、喉を鳴らしながら押入れの扉を閉める。
それは柴犬の知らない寅。
血肉を見て興奮を隠しきれていない猛獣。
獣の匂いが遠のくのを耳や鼻で感じ、無の音となった世界で暗闇の中で、腕の痛みと戦いながら声に出して泣き出した。大好きだった寅は既にそこにはいない、寅は自身を殺そうとナイフを振りかざした。
柴犬は目の前を涙で溢れさせ、兄のために声を枯らせ、押入れの扉を開けた。
だが、子犬はその先の世界に広がる本当の絶望を知り、彼のために流していた涙は引っ込み、声は失い、大好きだった寅への感情は憎しみへと変わっていった。
彼は赤く色付く一人ぼっちの世界で、猛獣へと変わり果てていく。
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