アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1-1
-
「スズヤン、リッくんとは仲直りしたの?」
ホテル内のレストランにて朝食をとる彼らに、大きな瞳をくりくりさせた柴犬がスズヤに問いかけた。
喧嘩などした覚えは無く、はてと一つ首を傾げてみるが、過去を辿ってみれば思い当たる節など昨日の事件、一つしか無い。
「別に昨日、兄貴と喧嘩してないけど」
「昨日マーくん二人喧嘩したって言ってた」
何を言っているんだと言いたげに、烏と霧はコーヒー片手にすまし顔で話を受け流す色男を見つめた。
言い合いはしたが、喧嘩したつもりなどお互い無く、記憶上存在しない。もしくは、兄弟喧嘩を知らないからこそ「違う」と言い切ってしまうのであろうか。
小さい頃から利口で、頭が回ったスズヤ。
小さい頃は今と違い素直であったリクト。
喧嘩する要素など存在せず、衝突も無かった。
気がつけば兄弟喧嘩を知らず二人は遠くに離れ、無知のままそれぞれ違う人生を歩んでいる。
スズヤは考え伏せ、そして流していた瞳をリクトに回せば、黒い瞳は赤い瞳を見つめていた。
スズヤは小声で「仲直りはしてない」と呟いてみせる。
「お互い意見が食い違ってるし、どっちも意見を曲げようとしてないから」
リクトはその言葉を聞くなり勢いよく立ち上がった。
必死に与えた言葉を真っ向から否定されたのだ、怒るのも無理は無い。だが、撤回するつもりなど無いスズヤは、そんな空気に飲まれず、「でも」と打ち付けた。
「少しだけ前に進んだとは思う」
その姿、昨夜の彼とは異なり逃げ腰では無い。彼は既に兄の過去、現在を全てを受け入れ、また自身の過去、現在も受け入れている。
決して交わる事の無い道は常に平行線。だが、交わる事の無い道でも小道が出来れば繋がって行く。
「俺、家族の中で一番頑固だと思ってるから」
家族。
決して口にしなかった禁句の言葉。拒んで、拒んで、拒み続けた過去のトラウマ。今でも彼にとって家族の言葉などピンと来ない上に、口に出せば嗚咽が走ってしまうほど。
体に染み付き慣れ親しんだ生き方を、今日から変えろなんて無理な話しで、根本的な捻くれの考え方、警戒心の強さ、全て語り継がれてない過去、作り出されたトラウマ、育っていない感情。兄が強く望もうとも、多くの課題が邪魔をし、その願いが何時叶うかなど遠い未来であろう。
だが、必死に言葉をぶつけてきた彼の前では家族になれるよう努力してみようと思ってしまう辺り、甘い人間なのかもしれない。
そんな二人だけが通じ合う会話に置いてけぼりの犬っころは「ねーねー、どういう意味?」と吠え始めるので、会話内容で察したマナブが笑顔で「まぁ、兄弟喧嘩は休戦中ってことかな?」と、また余計な言葉をアスカに与えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 51