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そんな、言葉を間に受けるアスカは「スズヤン羨ましいな、リッくんみたいなお兄ちゃんいてさ」なんて言い出す始末。
口も悪ければ、手も早い、センスの一欠片すら無い鞄を持つ彼の何処に憧れがあるのか。差し上げれるのであれば「どうぞ」と口に出したい程、理想の兄に程遠い。
そんな、ぶっ飛んだ彼の一言が可笑しかったのか、マナブは声に出して笑いながら、コーヒーの香りを放つカップを置き「アスカは兄弟とかいなさそうだもんな」と出す。
だが、思いもよらぬ「俺、上に一人いるよ」と一言が飛べば、一人っ子だと思い続けて来たであろうマナブは驚いて見せた。
また、同じ考えを持っていたのは彼だけでは無く、少ならからずこの場に同席している者達も同一意見であろう。
「スズヤンと同じく生き別れた兄弟だよ」
「生き別れたって……会って無いのか?」
「うん、あっちには養子の弟がいるから、俺のことはどーでもいいんじゃない?」
らしくない。
随分と冷めた対応に、少し疑問を持ちながらスズヤは目の前に並べられているクロワッサンにかぶりつく。
スズヤが兄に対して同類の対応をしても、それは性格上誰も疑問を持たれはしないであろう。だが、彼はスズヤと異なり人懐こい性格。突き放す彼の姿は、少し前のスズヤに少しばかり似ていた。
「最近はドリルネームで読んでるから、兄の名前すら思い出せないよ」
それを言うならミドルネームだし、ミドルネームとニックネーム間違えてないかと間に立ちたかったが、普段と違うアスカの雰囲気にツッコミを入れるタイミングを逃してしまうほど、スズヤは調子狂ってしまう。
今すぐ投げつけたい疑問は「兄を嫌ってるのか」であるが、疑問を投げつけなくとも、兄に対して好意を持っていないのは見て分かる。
そんな不自然な姿を見せられては、流石にマナブもそれ以上聞いてはいけないと危険信号をキャッチしたのであろう。あえて口を挟まず、再び彼は静かにコーヒーに手を出した。
静まり返るテーブル。
スズヤは手に持っていた最後の一口を頬張れば、口一面に香ばしいクロワッサンの香りが広がる。それと同時に空気を読まないそれは「サクサク」リズムカルに音が響き渡る。
こんなことなら、別な物を注文すればよかったなと頭の片隅で思いながら、スズヤは噛み切れていないそれをミルクで無理やり流し込むと、空気の読めないそれは音を止め、それと引き換えに新たな妨害が現れる。
いくら二人が空気を読もうとも、この席には空気の読めない男が一人存在しており、全ての気遣いを壊しに飛びかかった。
「お前、俺の弟と違って兄貴大好きぽいよな」
何処を何を聞いて、そんな結論にいたるのか。我の兄ながら問いただし、ついでに叩きのめしたいと願うスズヤ。
隣からはマナブのため息も聞こえ、スズヤもそれにつられるように息が自然と追いかける。
更に不味くなる雰囲気に飲まれるスズヤは、恐る恐るアスカに目線を置く。アスカはお皿を見下げるように俯き、手に持っていたフォークを一時停止。こちらからでは彼の表情を見ることが出来ない。
「そーだね、好きだよ」
「だろうな」
明るく放たれたその言葉に安心した束の間、肌に突き刺さるような殺気と殺意の言葉と共に、彼は何時もと変わらぬ笑顔のまま顔を上げ、そしてスズヤは一瞬にて鳥肌となる。
「今すぐ首を切りつけて、殺したいほど愛してるよ」
愛。
口に出すが、彼の言葉に込められていない言葉。
その時、スズヤだからこそ気がついた。多分、彼の目の前に広がる敵は兄一人。そして、強く恨み、また彼に対して消えぬ傷を付けられているのだと。
スズヤは兄に対して怨みを持った事は決してない。正確には誰を怨んでいいのかわからなかった。
不倫をして、自身を生み、そして捨てた母親。
暴力の日々を与えた血の繋がりの無い父親。
母親の不倫相手となった血が繋がりを持つ父親。
生まれたことにより格差を生み出し、自身を捨てた兄。
生まれてきてしまった自分自身。
人によっては怨むことにより逃げることが可能。だが、怨む対象が多と言うことは、それだけ嫌な思い出を思い出す事が非常に多い。逃げるどころか崖っぷちまで追い込まれていく。
だからこと、スズヤは何時しか怨む事を諦めた。
だが、怨みたい気持ちを理解できない訳では無い。感情が育てないからと言って、感情が無い訳では無いのだから。
スズヤは負を纏わり付かせる空気を払うように「アスカ」と口を動かしはじめたが、その言葉を覆い隠すように柴犬は「ごちそうさま」とその場を立ち上がり、後にする。
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