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オモテ爽やかウラ無慈悲-2-
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「…お前、言いふらすつもりか」
デスクにうつ伏せた状態のまま、
桐嶋が呟く。
やはりそこが気にかかるか。
「それはどうでしょう」
濁した返事をすると、途端にその顔を上げて俺を睨みつけた。
言いふらす、か。
それも悪くない、
この男を陥れる絶好のチャンスだ。
会社で仕事中にそんな事をしていたなんて、それだけでもクビが危ういわけで。
こんなプライドの塊みたいな男にとっては、精神的な面にも問題があるわけで。
社内にそんな噂が広まったら、
こいつは完全にどん底である。
かわいそーに。
「くそ…大体なぁ、
こういう場面に出くわした時は、むやみにつけ込まずにそっとしとくのが普通だろ!! 暗黙の了解だろ!! 」
「そんな暗黙の了解があってたまりますか。
初めて見ましたよ会社でする人なんて」
「ッ……
お前、なんかさっきから急に、
ずけずけ物言うようになってねーか…」
俺は言われてからハッとした。
我に返ったとでも言おうか、俺は突然、サーッと血の気が引くのを覚えた。
ただ痛快だという感情だけで、軽はずみな言動が過ぎただろうか。
いや過ぎたのだろう、この男はかんかんに怒ってるんだから。
「そ、れは……」
ああ、さよなら俺の爽やか。
「…ふん、だったら俺も社内に言いふらしてやろうか。お前が実はそんな性格してるってこと」
そんな性格って、
この男に蔑まれる謂れはないけどな。
桐嶋の冷笑を見ると、会議室でのことが何となく蘇る。
俺はかっとなって言い返した。
「好きにしてくださいよ。
でもどう説明するつもりですか。
上司が自慰してるのを向こう見ずに指摘した事ですか、それが悪かったっていうんですかあーそうですかそうですか」
「そういうことを何度も言うな!!
遠慮もなくいけしゃあしゃあと…
…お前、絶対彼女居ないだろ」
うるさいよ。
ほんの二か月前まで付き合ってた女の子は、ほんのりと振られて自然消滅したような。気がする、定かではない。
その前の子は俺の仕事がどうにもまだ安定してない時期で、忙し過ぎて別れたんだったか。
ただ、
俺と付き合うと、その誰もが口を揃えて、「桜庭君て、思ってたより……」と言う。
思ってたより、何だよ。その先を教えろよ。
きっと皆は、気遣ってくれていたんだろう。
恋人という身近な存在にもなれば、
俺のこの腹黒さがわかってしまうことに。
「…そういう桐嶋さんはどうなんですか」
「何でお前にそんなプライベートな話しなきゃなんねーんだ」
相変わらずしたたかな態度であしらってくる桐嶋。
俺はまた心底ムカついたが、これ以上性格がどうのとか言われたくないので黙ってやり過ごした。
「まぁいいです。もう帰ります。
今日あったことを告発するかしないかは…明日からの桐嶋さんで決めます」
「なっ…
お前、それが上司への態度かよ!
そもそも、証拠もねぇのに上に告げ口なんか出来るわけ……」
むしゃくしゃして机に当たっている桐嶋に、にやりと笑う俺。
良くぞ言ってくれたとばかりに、鞄から携帯を取り出した。
それを片手に、桐嶋に画面を突きつけてやった俺は多分、満面の笑みだっただろう。
「実は、これまでの一連、
ここにしっかりと録音させていただきました」
「……は…」
「姑息な真似してすいません。
でも…
俺もう、下らない事であんたにヘコヘコしたくないんですよ」
「…ふ、ざけるな! 消せ!!」
誰が消してやるものか。
危うく携帯を奪い取られそうな携帯を、ひょいと鞄の中に放り込む。
この5分程度の録音一つで、こいつの人生を棒に振る事が出来るなんて。
こんなわくわくすることがあるだろうか。
「それでは、明日から、
重々お気をつけ下さいね。
おやすみなさい…桐嶋さん」
にこやかに述べた俺は、呆気に囚われている桐嶋を残し、
帰り際に軽い会釈だけすると、
その場を去ったのだった。
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