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もしかしなくても相当やばい
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「やってしまった……」
車を出して、会社から逃げるように夜の道路を走り抜ける。
俺が桐嶋に向けて口を聞いたその一言一言が、未だ鮮明に蘇った。
俺のとった行動が間違っているとは思わない。桐嶋に非があるのはもってのほかだ。
…でも。
声を録音なんて度が過ぎた真似をしたのち、脅して上司の態度を改めさせるとか……
どんだけ徹底的なんだよ、
十数分前の俺すげぇな…!!
何というか。
俺は今日、自分の新しい、かつとんでもない一面を知ってしまったようだ。
俺の平穏が…何事もなく、ただ静かに幕を閉じるはずだったはずの今日が。
どこか遠くの、手の届かない所まで飛んでいってしまったようだ。
「終わった…絶対終わった」
どんな暴言を吐かれようと耐え忍んで来たこの半年間が。社内切っての爽やかボーイが。
自分が俺にどれほど恨まれてるか、あの男はバッチリわかってしまっただろうし…
俺の人生スチールグレー色だ…(※物凄く悲惨だと言っている)
それに、大口叩いたはいいが、
その先に踏み切る勇気がない。
大口とはつまり「明日から、重々お気をつけ下さいね…^^」と宣言したことであり、
その先とはつまり他社員に桐嶋のピーでピーなピーを噂してやる事だ。
それが出来ないことには、俺は桐嶋に対して優勢であるとは言えない。
今まで通り、パワハラ上司と哀れな部下でしか居られない。
そもそも、言いふらしたら社内はどう変わるんだろうか。
…皆、今以上に桐嶋さんを避け出すに違いない。
部長は柔和なお爺さんだけど、
こういう事には真面目な人だし、かなり怒るだろうな。
そうだ、部長に言ってしまえばいいんだ。
わ〜解決〜。
「……あの桐嶋の焦った顔。
写メでも撮って置けば良かったな」
あれはもう爆笑ものだ。
切れ長の目を見開き、真っ赤になって周章狼狽する姿は、あまりにもレアだった。
(……でも、
なんかちょっと可愛かったな。)
俺は自分の中に、一瞬でも浮かんだその感情に、ぞぞっと鳥肌を立てた。
「…ないないない。あんな愛想の欠片もない、しかも男に、可愛いはない」
そしてそいつは俺の毛嫌いする上司、それも俺より2歳年上の27才。
そんな男には、到底似合いそうにない言葉だった。
…いや。
今日の俺はおかしい。
明日起きられないのも困るし、この事は深く考えず、帰ってさっさと寝ることだ。
頭をリフレッシュさせないと。
それに、
おあずけになった酒は、もうちょっとめでたいことがあってからにしよう。
…桐嶋の辞職とか。リストラとか。
落ち着いてくるとまた少し眠気を感じるようになり、俺はペチペチと自分の頬を叩きながら、帰路の安全運転を心がけた。
明日が楽しみなような、ちょっと不安なような。
その夜の俺はまさに、遠足を前日に控えた小学生のような気分であった。
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