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ご馳走様でした
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どうしたいと来たか…
今度は俺が黙り込む番だった。
だって、いざそう問われてみると、自分でも良くわからないからだ。
ただ、小学生レベルで例えるならば、イジメっ子に復讐したい的なあれだ。
そんなことしてどうするのかと問い重ねられた時に、ちょっと困るやつだ。
ただ単に、自分より上の地位に居る者をいたぶるのが楽しいんですよ。と答えるが正解…というか正直なんだろうが、
流石の俺でもそこまで図太くはなれない。
…というか。
この人を弄ぶ行為が、そんな単純かつ無意味な発想で成り立っているあたり、俺の方もなかなか幼稚である。
そう自覚せざるを得ない。
「俺が嫌いだから、辞めさせたいのか」
続けて聞いてくる桐嶋。
声は冷静だが、目線は拗ねた子供のように醤油皿に落ち込んでいる。
「…さぁ。そうかもしれません…」
俺がまだ少し考えながら答えると、
今度はカッとなったようだった。
「何だと…!!
ふざけんな、誰がそんなこと…」
「でも、居なくなったら居なくなったで、つまらないというか…」
「はぁ!?」
思うことを素直に言うも、それは桐嶋さんの怒りを煽ることしか出来ないようだ。
まぁ僕の発言の大体は、この人の反感を買うんだけどな。
「…それに。俺が言うのもなんですが、
貴方は仕事面でも優れた方だから…
単純に、居なくなると、部が困ると思います。かなり危ういです」
仕事は完璧、指示は的確。
人として好かれているかはともかく、上からも下からも、業務での信頼は確かだ。
後は取引先での対応力とコミュ力と…接待ゴルフが上手い。
「…ほんと、絵に書いたような仕事人間ですよ」
この嫌味ったらしい言い方には、尊敬の意も込められているってこと、気づいてくれよ。ほんの数ミリくらいだけど。
「…お前、俺のことそんな風に思ってたのかよ」
「驚いたみたいに言わないでくださいよ、ほとんどの社員がそう思ってますよ」
俺が笑いながら言うと、
桐嶋は「そうか、そうなのか…」とか呟きながら、再び寿司を口に運び始めた。
「……俺だって、仕事は嫌なんだからな」
「え?」
あまりにも意外な言葉だ。
噛みきれずに飲み込んだイカが、喉に詰まって、盛大にむせてしまった。
「…顧客に合わせるのは面倒だし、残業は気が遠くなる。休みは嬉しいし、出来ることなら一日中ダラダラしてたい」
嘘だろ。
いつも、仕事が生きがいですみたいな顔してデスクに向かってる癖に?
部下の指導(パワハラ)が趣味ですって具合に威張ってる癖に?
「…俺今、凄く衝撃受けてます」
「そのようだな」
「飲みの席ではあんま気にしたこと無かったけど、桐嶋さん酔ったら結構愚痴り酒でしょ。直感ですけど」
ふとした瞬間に意外な弱音を吐く人って、えげつないストレス蓄えてそうだし。特にこの人の事だから、飲んだら酷そう。
「知らねーよ馬鹿。
…あと何皿か食ったら戻るからな。
煙草吸いてぇ」
随分話の趣旨が変わっていった気がするが、今回の昼休憩で、この人の知られざる事実をまた発見できたようだ。
…あとは俺の中で酒癖悪い疑惑。
今度の飲み会で調べてみよう。
「つーか、その事もわざわざ口外するなよ。
上司としての威厳がなくなる」
「はいはい、承知致しましたよ」
言ったら言ったで照れくさそうにしている桐嶋さんに、信用ならない返事を返す。
にしてもその言い方ならこの男、
俺に対しての威厳はもはや捨てたか…それでいいのかよ。
呆れ笑いを浮かべつつ、
俺は最後の一握りを口に放り込んだ。
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