アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
「今日はやたら顔合わすよな」「そうですね」
-
只今の時刻7時40分。
俺は気づいてしまった。
営業を回るのが一緒なんていつものことだったが、それ以外の桐嶋さんの行動についてだ。
話があるからとはいえ、昼飯は珍しく誘って来たわ、俺が同期の友達と喋ってる最中にいちいち呼びだしてくるわ、怒鳴りはしないものの日中俺を睨みつけて監視してるわ……
ともかく奴がおかしいってことに。
「わー…桜庭君まーた君のこと見てるよあの人ー…」
「諸事情があって…俺の事見張ってるみたい」
「や、まぁ、それ自体は…
いつも通りといえばいつも通りなんだけど、ねぇ…」
周りの社員から見ても、本当に今日の桐嶋さんはどこか異常なわけで。
俺と彼を除いての残業組達は、そそくさと仕事を済ませて帰っていく。
いつも明日やればいい事までダラダラやっていた明美さんですら、帰りの準備を急いでいるのだ。
この室内の異様な空気…どうしてくれるんだあの先輩。
俺も今すぐ彼の前からフェイドアウトしたい所だが、俺には今日ミスった分の皺寄せが…←
「…おい」
突然向こうのデスクから声を掛けられて、
背筋がびくりと打ち震えた。
「き、桐嶋さん? 何でしょう」
後は俺だけの楽しい楽しい超勤パーティなの。邪魔しないで頂きたい。
今このタイミングで、言うに事欠いて「たらたらしてっから居残り食らうんだよばーか」とか言われたら、
俺ほんとキレるからな。
周りにはもう見回す限り社員は残っていない。明美さんまでいつの間に。
流石、この人の影響力は破壊的だ。
「…それ、お前一人でやって、
明日までに終わるんだろうな」
終わらせるんだよ必死こいて。
如何わしそうに目を細める桐嶋さんに、
俺は「えぇ…まぁ、多分」とかあやふやな返事をしてしまった。
それが完全に仇となった。
「手伝ってやろうか」
「えっ!? ぁ、いや大丈夫です、頑張ります」
「チッ……今日は帰りたくねぇ気分なんだよ。
手伝わせろ」
「ぁ…すいません、じゃあ…
お願い、します…」
なんで俺は遠慮したのに怒られてんだ。
てか帰りたくない気分ってどんな気分だ、やっぱり筋金入りの仕事人間なんじゃないのか。俺が代わって差し上げたいくらいですよマジで。
「…何か失礼な事考えてねーか」
「ま、まさか。ははは…」
読心…!!
俺はいつからそんな顔に出る男になったのか。それともこやつの感性が鋭過ぎるのだろうか。
脅威の念を抱きつつ、隣に座った桐嶋さんに、探るような視線を向けていた。
端正な横顔が、ゆっくりとデスクの資料を捕らえる。
うっすらと隈の浮かんだ目元を見ると、疲れているのがわかった。
「…桐嶋さん、無理してませんか。
俺に脅されてるからって」
「はぁ? 馬鹿にすんな。
…別に脅されてもねーし」
ネクタイを緩め、朝より乱れた短髪をくしゃりと掻きあげる桐嶋さん。相当疲労しているのは見て取れるが、やはりこの人が取り掛かると、仕事が早いも早い、超早い。
俺の三倍速で進んでいく作業に感動し見惚れながら、ほんと何故手伝ってくれているのかと、相変わらず疑問に思った。
「…だって貴方今日、俺を他の社員と極力一緒にしなかったじゃないですか」
「…たまたまじゃね」
「俺をあんなわけのわからん事で一々呼び出したのにですか?」
「は、言ったなてめー…」
だって事実である。
俺が渋々本日何度目かの先輩のデスクに向かった際には、しばらく沈黙が続いた後、開口一番に「お前…犬は飼ってるか」とか、真面目な顔でほざき出した。
その後は謎にワンコについて熱く語り始めたが…あれ絶対どう考えてもテキトーに呼びつけただけだろ。
てか仕事中にそんな話を持ちかけてくれるな。
「明日からもアレはやめてくださいよ…
皆超びびってますし、俺も心底やりにくいです」
「ふん、だったらお前が会話の録音を消去すればいいだけだ。…今日の写真のデータも合わせてな」
ほらやっぱり気にしてるんじゃないか。
…正直、今日の写真の方は、女性社員あたりに見せると結構高値で売れると思うんだけど。←
にしても、対する昨日の晩の事は、
流石の俺でも驚きを隠せなかった。
「…そういや、今日はしなくて大丈夫なんですか桐嶋さん」
笑いながら聞くと、PCに向かったまま思いっきり足を踏みつけられた。
…今のは俺が悪かった。
「いい加減忘れろよもう遥か昔の話だろッ」
赤くなって抗議するが、
残念ながらつい昨晩の事件である。
「これから俺と桐嶋さんの間に一生付きまとう話ですよ」
そう聞いただけで気が遠くなったのか、桐嶋さんは頭を抱え込みながら、「頼むから忘れてくれ…」と連呼していた。
「…もしかして、
だから俺に優しくしてくれてるんですか。お昼も奢っていただいて…」
「当たり前だろ、それ以外にお前に良くしてやる理由がねーわ。俺お前の事嫌いだし」
や、それ言っちゃダメでしょ。
キッと睨みあげられて、わかってはいたけど何となく虚しくなった。
「な~んだ、残念です。
てっきり気に入られてるのかと」
「…本気でそう思ってたんなら、相当ポジティブな頭だぞ」
グチグチと嫌味を並べながら、俺はほぼノータッチのまま仕事を片付けていく桐嶋さん。
「ったく、あの柔順なお前が、
こんなとんでもない腹黒野郎だったとはな…」
そんな諦めたような顔で言わなくても。
「俺は今結構、桐嶋さんの事慕ってますけどね」
「それはいつでも良いように扱えるからだろうが」
そうは言うけど、まだ特に無理強いしたりこき使ったりするような、酷いことはしてないんだけどな。
今だって、先輩から手伝ってくれたんだし…
「……じゃあ、
たまには褒めてください。
それだけで俺、きっと可愛い後輩になれます」
「ならねーだろ馬鹿…」
鬱陶しげな目を寄こしつつも、俺のいい所を執念に探し出す桐嶋さん。
桐嶋さんがうんうん唸って、俺がにこにこ待ちわびてはや1分くらい経っても、一切の言葉がない。
そこまで悩まれると、余計に虚しくなるからやめて欲しいんだけどな…
「あ一つ思いついたぞ」
「えっ…」
ーーーーーーーーーーーーーー
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 180