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気持ちいい秋晴れですね
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『おはようございます桐嶋さん!』
「おう」
『あ、桐嶋さぁん!
おはようございます~!!』
「ぉ、おう…」
『おっ、桐嶋さんじゃないですかー!』
「…何なんだよ」
翌朝の社内では、少しおかしな事が起こっていた。
社員皆が、桐嶋さんを見つけてはにこにこ顔になって元気よく挨拶する。
…はたしてあなたには、
この異常な光景の異常さがわかるだろうか。
今までの挨拶は、なんだろ。
どっちかというと桐嶋さんの方に言わせるようなオーラがあったというか、義務というか仕方なくというか。
あの恐ろしい上司に、笑顔で挨拶することが難しかったのである。
それが今朝はなんだ…
皆なんて生き生きとした顔をするんだ!
いい笑顔、はなまる! 皆爽やか合格!!
「おい桜庭ぁ!!」
俺の名を呼ぶ桐嶋さんに、社内がざわりとどよめいた。
彼には理由がわからないんだろう、それにすらも奇妙な顔をしつつ、ずかずかと近づいて来る。
…なんだよ、
この素晴らしいオフィスの朝に、何か文句でもあるのかね桐嶋君。
険しい強面を前にして、
俺はにこりと微笑んだ。
「どうかしましたか? 先輩」
「どうしたもこうしたもあるか…
お前、あいつらに何か言っただろッ…」
あいつらとはもちろん、他社員のことである。
尚も微笑ましいような穏やかな表情で見守る社員に、桐嶋さんはどうも落ち着かない様子で続けた。
「どいつもこいつもニヤニヤして来るんだよ、気色悪いから何とかしやがれ」
そんなご無体な…。
それ本当に俺のせいじゃなかったら相当無茶な頼みだぞ。
と言うと、
実はこの人の推理はご名答で、
俺は実際、社員に『何か』言ったのである。
「んな大した事じゃありませんて…
俺が昨日先輩にちょっと褒められたことを、皆に自慢しただけです」
そしたら皆見事に湧いちゃって、
どうやら同期の間で、『桐嶋寛人実は結構いい人説』が誕生してしまったようだ。
何でそんな大袈裟な事態になるのかというと。まぁ、…
あれ程とことん苛められて、完全嫌われていただろう俺を、先輩が一言でも二言でも褒めたのだから。
それはそれは大事件なんだろう。
…なんかちょっと複雑だけどな。
「でもまぁ、いいじゃないですか。
皆の高感度も上がったことだし?」
「要らねぇよ! お前の夢または妄想だったと撤回して来い今すぐにッ」
「嫌ですよなにそれ!!」
まるで俺が可哀想な奴みたいじゃないか。
救いようもない馬鹿みたいじゃないか。
「あれは、お前が褒めろ褒めろとうるさいから無理やり考えた至りじゃねーか」
「うっ…」
そういえばそうだった気もしなくもない。
言葉に詰まって、さっと目を逸らした。
桐嶋さんはさらに腹を立てたようだ。
かろうじて小声だったのを大にして言い放った。
「大体、あんな些細な事で舞い上がってんじゃねーぞ……
お前たった一人の良い所なんてな!
本気になればいくらでも見つかるんだよ!!」
瞬時に、
社内中がシン…と静まり返った。
それから最近よく晒す、俺のぽかんと口の開いた間抜け面に、
同じく間抜け面の社員達。
それを見て、しまったと口を覆う桐嶋寛人27歳現在皆のアイドル。
「…あの……それって、どういう」
「……」
昨日の言葉と大いに矛盾しているじゃないか。
俺の長所なんかほぼ無いに等しいって馬鹿にしてたあの桐嶋さんが、まさかそんな事を言うなんて。
当の本人はざまぁみやがれ、といった調子だったが、今のこそ、かなりの褒め言葉じゃないのか…?
どうしたの、この人最近何かいい事あったの。それとも、
もしかしてこれ……マジで夢??
自分でも信じられない、って顔をする桐嶋さんに、皆女神のような暖かい微笑みを向けている。
「違うぞお前ら!
今のは、間違えたというか…ッ」
『そうでしたか^^』
「決して俺は、こいつを認めたわけじゃ…」
『なるほどなるほど^^』
「性格悪いし面倒くさいし、それに…」
『ほ〜う^^』
「ぐっ…
もういいからさっさと仕事にかかれ!!」
その場の雰囲気に負けて、
そそくさと去っていく桐嶋さんに、
「良かったじゃん」と笑いかけてくれる明美さん。
「何あの人、
普通に君のこと気に入ってんじゃん」
「いやぁ、どうかな。
俺握ってるからねー…」
彼の弱みを。
桐嶋さんがうろたえてる姿って、どうも見てて面白いよなぁ…
やっぱり、可愛い後輩になるにはまだ早いかなw
俺はデスクに向かう彼の後ろ姿に目を細めて、にやりと口角を上げた。
「それに。
な~んか最近、めちゃくちゃ楽しくなってきたんだよな~」
「……何がっ?
…なんかおかしいよ桜庭君、大丈夫?!」
「あはは、何でもないよ~」
こうしてまた、
俺の天にも登るような一日が、
幕を開けるのであった。
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