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打たれ弱くてすいません
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デスクに向かうと、桐嶋さんは普段通りの不機嫌面だった。
もう少し丸くなったらどうなんだろうか。
せっかく、皆の受けが良くなろうとしているものを。
…ってまぁ、毎度俺が呼び出されてるってことは、その度何かやらかしてるからなだけど。
目の前の先輩は、ピシャリとデスクの上に資料を叩きつけた。
「お前タイプミスが多いんだよ…
人気者になるのはいいが、ちょっと浮かれ過ぎなんじゃねーの」
「…すいません」
「重要な部分まで当然のように間違えやがって。俺が目を通さなくても完璧な状態にしとけって言ってるだろ」
そうしたとしても、仕事に対して律儀なこの人なら、一通りしっかり目を通すと思う。
「すいません、気をつけます…」
やっぱり、何も変わらない、いつもの桐嶋さんだ。
俺の方こそ態度は変わらないけど、まったく俺に怯えないなんて、面白くない。
結局こうやって怒られて、
怒られたことには普通に反省して、
後は今から特に関係のない無駄な説教が始まるのを聞き流して……
「もういいから…さっさと戻れ」
あれ。
「えっ?」
「えっ、て何だよ…早く仕事に戻れって言ってんだ聞こえなかったのか」
そうなんです俺良く難聴になるんです。
…って、そうじゃなくて。
どうもおかしい。
いつもならギャンギャン気が遠くなるほど吠え立てるくせに。
一度捕まったら最後、長時間に渡って説教垂れるくせに。
そのために会議室にまで呼び出したりして来たあの先輩が。
正しいことしか怒ってこない!!!!
いつもなら、そうだな。
「それにお前、タイピング遅いくせにうるさいんだよ」って文句くらいは付け加えるだろう。
そしてそれをきっかけに凄い剣幕の叱責を受けるのが通常。
これは異常…!!
「ちゃんと画面見て打て、キーボードを見るな。いいな。
ほら行け、二度と呼ばせるな」
しかも初めて的確な指示出してきた…!!
入社半年の俺が教わるべき内容じゃないんだけどな。俺にはほとほと呆れるぜ。
「…もうお前の顔見たくねぇんだよ」
「っ……はい、
失礼します」
俺はぺこりともう一度だけ頭を下げて、煮えきらない気持ちを抱えたまま、先輩のデスクを後にした。
いつも穴が開くほど睨みつけてくるのに、全く目は合わせないし、出来るだけ構いたくない的なオーラあからさまに出してくるし、俺の中顔見たくないらしいし…
これは…あれだな。
「…マジな方で、完全に嫌われたな」
褒められたからって調子乗りすぎたかも…
そもそもちょっと嬉しかったとはいえ、どんだけ舞い上がってたんだ俺。
あの上司ごときに。
今だって、これも、深く考えることじゃない。嫌われてて当然だ。
当然だけど… … …
優しい一面を知ってしまったからだろうか。少し冷たくされただけで、前より一段とダメージがあるというか。
あしらわれてる事実が、なんか超寂しいんですけど。
いやいやいや。
何もう、俺面倒くさいじゃん!
俺あの人にそんなに懐いた覚えないから!!
大っ嫌いだよ、無駄に関わられなくてせいせいするわ。
いいさ、一々注意されないくらい優秀になって、出世して見返してやるよばーか。
先輩のばーかばーか。
独り善がり野郎。
「……はぁ」
呼び出されたのなら。
どうせなら、もっと叱られたかった。
なんて…
もう絶対どうかしてるから。
仕事のし過ぎだろうか、有休取って一日寝込んでやろうか。
そうしたらこのおかしな頭も冷えるだろうか…
「…画面を見て、文字を打つ……か」
うそ、何このナイーブな自分。
そんなにショックだった今の?
… … …
一体俺の中で、
何がこんなにも引っかかってるっていうんだろうか。
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