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『そういう目』で見てる2
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なかなか無いぞ、こんな機会。
こんな機会とは、上司と共に会社のトイレで同じ個室に入る機会だ。
…いや滅多に無いどころか、寧ろあっては困ることだと思う。
やむを得ないこの状況…
尚も警戒し続ける桐嶋さんに、近過ぎるだのもっと離れろだの目で訴えられながら、
社員Aが出ていくのを見計らった。
(…おいまだか)
(はい…長いですね。
だいぶ我慢してたんでしょうか)
(真面目な顔して下品なことを言うな)
個室の戸の隙間から、あれやこれやと超小声で会話しつつ、社員の後ろ姿を見守る。
扉に貼り付く俺の背後では、
桐嶋さんが寒そうに両腕をさすっている。
そういえば、まだお互いの服を返していなかったのだ。
サイズの足りないシャツぺら一枚の状態では、そりゃあ寒いだろうに。
俺のシャツをてきとうに羽織った桐嶋さんが、こんな寒くて狭い、取り分け綺麗でもない場所で、
声を押し殺し大人しくしている。
それは、非常に変な感じである。
・ ・ ・ やばい。
なんか引き続きムラムラしてきた。
最近おかしいとは思ってたけど、俺ってマジでこの人に欲情するんだな。
…何故に?
じっと目を合わせると、不安そうな顔で「何だよ」と口パクで訴えてくる。
その態度がまた何とも加虐心をそそる。
加虐心…なんて物騒な気持ちは、爽やかな俺には不似合いな筈だ。
そもそもこの状況で、
男のこの人を見てエロい気分になるなんて、マジで腐ってる。
個室の外では社員Aが用を足している真っ最中だというのに…
シチュエーションだけで考えても最悪だぞ、馬鹿なのか俺は!
… …まずい。
なんか、なんでだ。
勃ってきた…
そっちの方まで馬鹿になったか。
心のみならず、身体のコントロール機能までおかしくなってしまったらしい。
狭い個室で、ゆっくりと足を押し進めた時、トイレの入口で、ガチャリとドアが閉まるのを聞いた。
「桐嶋さん…誰も居なくなりましたよ」
「あぁそうみたいだな、
わかったからさっさと…
ひっ!?」
すっかり冷えた手で、さらけ出された首筋に軽く触れてやる。
そのひやりとした感触に、
桐嶋さんは短い悲鳴を上げた。
「なっ、何すんだよ」
「はは…あの鬼の桐嶋寛人が、
随分可愛い反応ですね」
「うるせぇッ …
馬鹿なことしてねぇで、早く俺の服を返せ!
また風邪がぶり返したらどうしてくれるんだよ」
トイレは窓まで開けっ放しだ。
凍えるとまではいかないが、外気に晒された桐嶋さんの顔は、うっすらと色ずいている。
何でだろうか。
いつもと同じ目で睨まれているのに、
この人が全く怖くない。
怖いというよりは、寧ろ… …
「震えちゃって、
寒いんですか…?
……それとも。
やっぱり俺が怖いですか?」
自分の中で、
何かをずっと繋ぎ止めて守っていた綱が、
ぷつんと切れてしまったような感覚を覚えた。
「ねぇ桐嶋さん…」
「…は? ちょ、おい…っ」
この人をめちゃくちゃにしてやりたい…
俺様気質なこの人の、プライドというプライドをぼろぼろにして、二度と立ち上がれなくなるほどに虐め尽くしたい。
我ながら恐ろしいことを思いつくが…
身体が勝手に動くとはこういうことだ。
頭で何か考えるというよりは、かなり衝動的に、
俺は目の前の男を抱きしめ、
個室の壁に追い詰めていた。
それから抵抗されるような間も置かず、形の良い唇に自分のそれを押し付ける。
他に誰も居ないトイレに、
がたりと物音が響いた。
「んむっ…ぅ!?」
当然だが、
桐嶋さんは相当焦ったんだろう。
俺の目の前で、茶褐色の瞳が困惑したようにゆらゆらと揺れた。
しかし、この人のこと。
次の瞬間には、ぎゅうっと肩の布を掴んで引き離そうとする上、
その腕力は半端じゃなかった。
「やめろ! …やめ…んんっ」
俺も負けじと何度も唇を重ねて、
桐嶋さんの足から力が抜け始めた頃合いに、熱い舌を差し込んでやった。
「んぁっ…」
驚いて上ずった声が漏れ、
引けた腰を片手でたぐり寄せる。
チュッ…クチュ…
卑猥な水音と一緒に吸い上げた舌は、微かに煙草の苦い味がした。
良いキスとは言えないが、
生々しくて興奮する。
「可愛い…
桐嶋さん……可愛いです」
久しぶりに、心の中で思ったことそのままを口にした気がした。
今まで、
何かしら理由をつけて誤魔化したり、自分の中で無かったものしにていた感情だ。
考えることすら疎かにしていた気持ち。
ーーーそうだ。
俺は、きっと、この人のことが… …
蒸気した顔に、乱れた黒髪。
涙ぐみながらも俺を睨み続ける強気な目。
肩で荒い息をし、
涎の伝う口元を拭う桐嶋さん。
身体を離し、
その姿を初めて良く眺めた後、
俺はハッと我に返った。
それから、
自分の行動を把握し、
深く深く地の底まで反省するまでには、
たっぷり30秒かかった。
(何をやってんだ、俺は…!!)
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