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犬猿の仲良し
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「…それ、ほんとに言ってます?」
てっきり自分の妄想による幻聴だと思い込んだ俺は、取り落としそうになった携帯を構えて、その向こう側の反応を待った。
『…無理ってんなら別にいい。
俺も暇じゃないからな』
「いやいやぜひ来て下さい住所教えます!!」
ぐにっと引っ張ったほっぺたは、ちゃんと痛かった。夢じゃないんだ。
もう幸せ過ぎて、
熱なんか吹き飛んでしまいそうだった。
だがその喜びもつかの間…
立ち上がってぐるりと部屋を見回した俺は、恐ろしい事実に気づいてしまったのだ。
「ぁ…すいません。
やっぱ来ないで下さい」
『はっ?』
「ゃ、違うんですあのッ!
部屋が…その、汚過ぎて…
とても人を呼べる空間じゃありません…」
数日前までは綺麗だったはずの床の上が、クローゼットが、キッチンが、
ありとあらゆる物で溢れている。
え、俺の部屋ってこんなに汚かったっけ。
ここで普通に生活してた自分も怖いけど、俺ってもう少しくらい几帳面じゃなかったか。
なんというか…マイナスの磁場が大量発生してるって感じ。
「体調が良かったら片付けましたが…
この状態見せられません」
『自分の住む部屋くらい整頓しとけよ。
さすが表だけの人間だな』
「うっ」
返す言葉もないとはこのことだ。
綺麗好きな桐嶋さんに言われるってだけでショックだけど…
その嫌味ったらしい嘲笑の言葉には、
なかなか落ち込むものがあった。
なんだよ痛い所ばかり突いてきて。
俺今病人なんだから、もうちょっと敬ってくれたっていいじゃん。(関係ない)
『…散らかってるのは許してやるよ、
仕方ねーから。お前が嫌なら遠慮するけど…
俺と飲みてぇんだろ』
「き、桐嶋さぁぁん…」
『ま。お前は水だけどな』
「ちぇー」
悪戯っぽく笑う桐嶋さんの声は耳に心地よくて、接し方も普段より優しい気がする。
仕事は早めに切り上げるから、何か欲しいものがあればメールを入れるようにと、桐嶋さんは続けた。
やっぱり俺が熱貰ったから、
少しは気遣ってくれてるんだろうか。
俺はそう思うだけでドキドキしながら、
ぎゅっと携帯を握った。
「桐嶋さん、ちょっと俺のこと甘やかし過ぎじゃないですか?…嫌いなのに」
そりゃあ冷たく当たられるよりはよっぽどいいけど。こうも優しいと、なんだか落ち着かないというか。
何か企んでないか疑ってしまうというか。←
『るせーな。
俺が移した風邪なんだから、責任感じてやってんだよ』
責任感じる時まで上から目線…!!
『それに、あれが移ったってことは、
相当キツい筈だろ…大丈夫なのかよ』
不安そうな声に、思わずキュンとしてしまった。
まさに、矢が俺のハートを撃ち抜いていった感じ。甘く痺れるこの感じ。←
何この人、何嫌いな部下の熱心配してくれてんの、マジなんなの意味わかんないよ、何その沈んだ声。可愛過ぎんだろ。
もう俺、色々やばいよ。
「…ず、全っ然大丈夫れす」
『? 喋れてねーぞ…
とにかく薬飲んで寝とけ。いいな』
「ぁあ、ちょっと待って!」
俺が呼び止めると、『あ?』とかったるそうな生返事が返ってくる。
朝一から部下に電話で起こされて、やれやれって気持ちなのはわかるが、俺にとって今はチャンス。
この貴重な時間の最後に、
これだけは伝えたい。
「俺のために、ありがとうございます…
桐嶋さんって、実は結構面倒見よくて兄貴肌ですよね。そういう所、大大大好きです。
一人で家に寝っ転がってるのって、絶対超寂しいんで…来てくれるの楽しみにしてます。
早く…早く、会いたいです…」
思いのままを伝える時の俺は、
本当に怖いもの知らずというか勇気があるというか。
なんかすごい恥ずかしいこと言ってる気がするけど、別にいいよね。
俺今高熱に浮かされて頭が茹だってるって設定だから。いいよね。
「桐嶋……さん?」
…あれれれれー?
はたりと声が止んでしまってから20秒。
静かな部屋に、ちょっとよくわからない空気が流れ出した。
流石にやばい、怒らせたと思った俺は、
前言撤回の許可を求めようと口を開きかけた。
のだが… …
『ばっ…か、
な、何言ってんだお前…ッ』
え、なんかすごいテンパってない…?
『好きとか会いたいとか、
お前に言われても嬉しくねぇし…
ははっ…き、気持ち悪ぃんだよ、
甘ったるい声出しやがって
ホモ極めすぎだろ、ほんと…ほんとそういうのやめろよな!』
…こ。
これは………
いつもと違う。
俺にはわかる。
あの桐嶋さんが、照れている…!!
何故だ?! 何があった?!
何も言わずに固まっていると、
向こうも気まずくなったのか、今度は理不尽に怒鳴るのが聞こえた。
『…ッじゃあまた夜にな!!
つーかもうこんな時間から電話してくんじゃねーぞ、迷惑だからな!!』
「ぁ、桐嶋さ…」
ブツッ…
容赦なく切られた通話。
俺はヘタリと布団の上に座り込んだまま、
にやけ顔の口元をだらしなく緩ませたまま、
ぼんやりと汚い部屋の天井を見上げていた。
…天におられる神様。
俺の心を弄びたいのはわかるけど、ちょっと悪戯が過ぎるんじゃありませんか。
俺が嫌いなはずなのに。
嫌なこといっぱいされて、恥かかされて、
顔も見たくないはずなのに。
あの人の心は、俺にはないのに…
「〜〜〜ッんだよあれ!!!!
桐嶋可愛いんじゃくそぉッ!!
あんな反応されたら諦めつかねーよッ!!!!
…つけるつもりないけど!」
どうやらご乱心の俺が罪のない枕を叩きつけているうちに、
汚い部屋は羽毛によってさらに散らかってしまったのだった。
さらには俺の熱も40℃を上回った。
そんな午前7時半の出来事
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