アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
有休2日目
-
「…あー…」
悪夢の夜から目覚めた時刻は、
次の日の午前9時。
ちょうど出社時間だな、
とか思いつつ、ソファの上からごろりと転がるようにして立ち上がった。
高熱ばかり計らされて体温計がバカになってなかったら、
熱は間違いなく38.9度。
40度超えてないだけマシだけど、全っ然下がってねーし。…
体調のみならず色々思う事も多くて、
今日もまた、会社を休んでしまった。
部長は不満や嫌味を言うどころか、
俺の地の底を這うような死んだ声を聞いて、「大丈夫かね」と連呼していた。
…大丈夫ではないけどな。
心身叩きのめされて、なんとか生存してるって感じだ。
「だぁー…自分臭ッ…
歯磨こ」
よたよたと洗面所に向かうと、
その鏡にあり得ない程酷い顔をした自分が映る。
何のホラー映画だよこれ。
目の下に異様に浮き出た隈と、緑っぽい顔色なんて超クレイジーだ。
「ひえー…病人極めてるわー…」
歯ブラシをしゃこしゃこしつつ、
ふと洗面台を見下ろすと、
脇の方に明らかに自分の物ではない腕時計が置いてあった。
「ぁぐっ」
思わず棒を喉に突っかえて、盛大に蒸せてしまう。
…こ、これって確実、桐嶋さんの忘れ物じゃん!!
あのマメな人のことだから、
きっと手洗う時に外したんだ…!
作りの繊細な、絶対何処かに置いてっちゃいけないような高価な時計。
あの人が着けていると気取って見えないのに、俺の家に置いてあるとあからさまに浮いてしまうこの時計。
俺はちょっとムッとしながらそれを手に取って、光にかざしたり手首にはめたりしてみた。
「ぁ、すっげ。機内設定とか出来るやつじゃんこれ…おぉぉ動いた動いた」
絶対早く返さないといけないものなのに、
俺にかかればすぐ壊しそうで心配だ。
ひやりと冷たくて固い金属部に触れ、
ずっとこんな物を見ていると、
嫌でも昨日のことが蘇る。
しばらく時計を弄った後で、
俺は溜めに溜め込んでいた息を深く吐いた。
「桐嶋さん…俺、
ちゃんと好きなんだよ?」
今更になったところで、それに昨晩のあの言い方じゃ、
俺に強烈な悪印象を抱いた『あの日』の記憶は、消えないものなのだろうか。
それだけじゃない。
俺は他にも彼に痛手を負わせるような言動を繰り返して来た。
…でもって、
始めは仕返しの意があったわけだから、もっと残酷だ。
お互い犬猿の仲だと思っていたのを、突然好きだと告白されたところで、
そこに愛は成立しないのだろうか。
ただの1ミリも。
いつだって、あの人に触れたくて堪らない。
俺の全部を受け入れて欲しいあまりに、無理くり押し付けてしまう。
度が過ぎたこと嫌がることを、平気でしてしまう。
好きで好きで、その好きがはみ出て先走ってしまうような相手に、
俺は円滑な対応が出来るのだろうか。
「…マジ俺、最ッ低だ…」
正攻法で桐嶋さん落とすとか大口叩いてたくせに、その結果がこのざま。
怒鳴られて出ていかれて、当然だ。
「桐嶋さん……ごめん…」
たくさん酷いことした後じゃ、
伝わるものなんて何もないのかな。
「好き… …に、
なって、ごめん…」
そのまま洗面所の壁に、ずるりと座り込む。
ぎゅっと頭を抱え込んだまま、
俺は涙すら流せなかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
55 / 180