アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
飲まなきゃやってらんねぇ!
-
『ぁ、もしもし? 桜庭君?
…今私昼休憩なんだけど…
大丈夫かな、喋れる状態?』
昼過ぎにかかってきた電話。
慌てて出ればその声は明海さんで、予想は裏切ったけど、少しばかり安心した。
…今もしあの人からかかってきたところで、俺はきっと、まともに対応出来ない。
「お、明海さぁん!
ははは、全然大丈夫、
ちょっと暑いだけだからぁ~」
やたら声がでかくてテンションのおかしい俺に、明海さんは『誰だ君は』と不審な声で返してきた。
そして、恐る恐るという風に尋ねてくる。
『桜庭君…何昼から飲んでんの?
君熱が悪化してるんじゃ…』
「熱ぅ? んなの39度だしぃ、平気平気~
42度超えない限り人は死なないからぁ~」
『何言ってんの、高熱じゃん?!
てか酔い過ぎ…どんだけ飲んだの? 死ぬの?』
「ん〜…」
実は今、昨日桐嶋さんが買ってきたやつを全部広げて、1人でアルコールの海に溺れてるところなのだ。
机の上に散らばった酒缶を見る。
まだ空けていないものばかりで、特にそこまで多く流し込んだわけではない。
「んとね~…今ストロング3本目ぇ~」
されどこの酎ハイ、アルコール分9%…
それに、雰囲気に影響されない限り酒には滅法強い筈が、熱のせいで酔の回りが早すぎる。
すでにヘロヘロだ。
『飲み過ぎだし!
どしたの、なんかあったの? …桜庭君て、お酒入るとほんと人変わるよね~…』
明海さんは親身に叱ってくれるような所あるよなぁ、とか思いつつ、「ん~べつに?」と生返事を返した。
『嘘ばっかり。
また桐嶋さんと何かあったんでしょ…』
「ふぇ…?」
なんでこの子がそれを知ってる?
突然ピンポイントに指摘されると、隠すことって難しいもんだ。
俺は笑って誤魔化しながら、どうしてそう思ったのかと尋ねた。
『だって桐嶋さん、
桜庭君の名前出すといつもの何倍も機嫌悪くなるんだもん。
そのせいで皆君のこと心配してんのに、
桜庭樹禁句令出されたし!』
「あっはは…!
…マジ、で…」
…桜庭樹禁句令ってなんだよ。
一番の疑問点そこなんですけど。
確かに、桐嶋さんの機嫌の悪さには何パターンかある事は知ってる。
…まぁ、大概いつだって仏頂面だけど、
たまに社員との話に笑ってたり、気が抜けてふにゃって緩んでたりする。
すると可愛く見えるから、
そういう面も含めて好き…なんだけど… …
「……や…俺ね。
もう完っ全に愛想尽かされちゃったかも。
あの人に許してもらえないかもしれないんだよねー…」
『え…それどういうこと?』
笑いながら言う俺だが、明海さんはただ事じゃない何かを感じたらしい。
携帯から不安気な声が聞こえた。
「んー色々あったんだぁ…
酷いことしたし、酷いこと言ったし…
ちょっと距離が縮まったなんて、思い違いだったんだよなぁ…
俺調子乗り過ぎたんだよ……はは、ほんと馬鹿」
『さ、桜庭君…』
「こんな事になるくらいなら…
桐嶋さんなんて、
ただの怖い上司のままで良かった…」
あ。 やばい。
…泣きそう。
今更になってずっと我慢していたものが押し寄せ、感極まったのだ。
俺はぎゅっと固く口を結んだ。
お酒のせいか、今この現状のせいか、
感情抑制機能または判断力が極端に鈍くなっている気がする。
明海さんに話して、彼女の前で泣いたところで、一体何になるんだろう。
俺にとって桐嶋さんがどんな存在なのか知るよしも無い相手に、この話は無意味だ。
きっと明海さんは今、
わけもわからず電話口で困り果てていることだろう。
「… …ご、ごめん明海さん!
大丈夫だから、もう切るね」
じわりと熱くなる目頭を拭って、
震える声を庇いつつ早口で言った。
しかし、
次に聞こえて来た口前は、
意外にも落ち着いたものだった。
『あー…待って、切らないで。
桜庭君…もう少しだけ話そ?』
ーーーーーーーーーーーーーー
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
56 / 180