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はっきりしてよ
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「…おい、いつまで泣いてんだ。
その面オフィスで晒すつもりですかー」
たった14時間の入院生活から開放され、
俺は桐嶋さんの車で2日ぶりの会社に向かっていた。
許して貰えたのは嬉しいし、体調が回復しつつあるのも良い事なんだけど…
今回の件を通して、改めて好きになってしまったというか。
駄目だってわかっているのに、ズブズブと桐嶋沼に飲まれていくのだ。
俺、学習しねーな…
そう思いながら、俺は運転席で煙草を吹かしている強面をチラと横目に見た。
「…あの」
「ん? …あぁ、悪い。
病み上がりの隣で煙草はまずいか」
「いや、そうじゃなくて」
「……んだよ」
顔をしかめる桐嶋さんに、
俺は項垂れながら、泣きつくように言った。
「…桐嶋さん。俺…
やっぱり好き、なんですけど…」
「… … …
うわぁーなんかこの状況デジャヴだわー…」
言われてから気づく。
そうだった。
初めの告白も、2人きりの車の中だった。
少しの違いを言えば、前の時は俺が運転してたってぐらいだ。
もはや「好き」の言葉に驚くことはしない桐嶋さんだが、悪い反応は変わらぬまま…
俺の頭で、あの日のことが鮮明に蘇るようだった。
「ねぇ…なんで俺じゃダメなんですか?」
我ながら史上最強に生意気な発言をしてみた。
…
桐嶋さんは、あんなにモテるのに彼女が居ない。
直接聞いたことはないが、これは社内でも有名な話である。
だからゲイなんて噂を立てられるんだから、いっそのこと俺とひと経験してみないかとの誘いなのだ。←
だが当然、
桐嶋さんは嫌悪むき出しの顔で、
ゴミでも見るような目を向けてきた。
「なんで、だと?
お前…ちょっと優しくしてやったらすぐ調子乗るのな」
「うわぁぁすいませんすいません!!」
慌てて謝る俺に呆れ返りながら、
携帯灰皿へ吸殻を押し付けている。
また自責の念に駆られることとなった俺は、しばらくの間ダッシュボードの上に突っ伏し、頭を抱えていた。
「…つーかそもそもの話。
本気だってんなら、お前は俺の何が良いんだよ…」
いつか投げかけられると見通していた問いかけに、ふと顔を上げる。
この質問には、両手の指におさまらないほどの回答例があるのだ。
あまり興味もなさそうな桐嶋さんに反し、
俺はデレデレと頬を緩ませた。
「顧客への対応が上手く仕事が出来て、営業マンとしても憧れますし…
堅い人といえばそうですが、蓋を開ければこんなに男らしくて優しくて…
…もうどこもかしこも、すげぇ好きです」
「………あっそう。
うわ、道間違えた」
病院から会社に向かう機会なんてなかっただろうに。
舌打ちしつつ、方向転換に入る桐嶋さん。
その不機嫌な横顔が、
やがて助手席の方に向けられた時。
「…何見てんだ」
「…っ」
彼の頬が、じわりじわりと紅潮しているのを見た。
…まただ。
また俺の前で、俺の言葉で、
そんな反応しちゃうんだ。
運転中の彼の傍らで、
俺は自分の中でざわざわと燻る気持ちを、何とか抑制していた。
…どうでも良さそうな態度した後でそういう顔を見せるのは、堪らなくずるい。
「桐嶋さ…」
「なぁ桜庭」
俺の呼びかけは、ふと顔を逸らした桐嶋さんよって遮られる。
その声が妙に落ち着いていたから、俺は口を噤んで、この人の言葉を待った。
「お前って……
俺が一生そばに居ろっつったら、
本気で言うこと聞いちまいそうだよな…」
「……ぇ…」
馬鹿にしたような笑いとは少し違った雰囲気で、
本気で言ってるのかと聞かれると、どこか冗談じみた感じもある。
まだうっすらと頬を染めた桐嶋さんから、目が離せなかった。
今のは、どういう意味なんだろう。
どんな気持ちを持って言ったんだろう。
なんでそんな複雑な顔を見せるんだろう。
高鳴る胸に手を当て、どぎまぎした様子で見つめ返すと、
トスッと額を突かれた。
「……なーんてな!」
からからと笑う桐嶋さん。
俺は仕方がないから、一緒になって困惑した笑みを浮かべた。
「もう、何ですかそれ…」
あんな風に言っといて、
洒落にしてしまうのか…
自分から茶化されてしまうと、これ以上詮索する事も出来ない。
俺はもどかしい気持ちを持ったまま、助手席で不貞腐れた。
会社までの道のり。…
俺達の間に、どこか誤魔化しきれていない雰囲気が、ただ為すすべもなく流れていた。
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