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やれば出来る子
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その後。
トイレから出て来てからの俺の集中力は、
半端じゃなかった。
(桐嶋さんとお酒…2人でお酒…
桐嶋さんと2人でほろ酔い、からの泥酔い…)
この前誘われた時は結局喧嘩してしまい、それっきりだから、
再び桐嶋さんと飲めるとなると、つい嬉しさと焦りだけが先走ってしまう。
そう。…
早く切り上げられなかったら無しだと脅しをかけられているのもあってか、
午後の俺は、とんでもなく仕事がはかどりスピーディーなのであった。
「明海さん、今暇?!
これ、誤字脱字無いか確認してくれない?!」
「どしたの桜庭君…ていうか、なんで私?」
「今日の内にこれ以上ミス犯しても駄目って条件なんだ…このチャンス逃したら、全てが終わるんだよ。
お願いします、明海様」
「いや、わけわかんないんですけど…
何の話?」
怪訝な顔を浮かべつつ、目を通してくれる明海さん。
近頃若干キャラが壊れ気味の俺に対しても優しくしてくれる、彼女はやはり神様だ。
これで俺は、
今日の仕事を終えるまで、桐嶋さんに自分の名を怒鳴られることはない。
なぜなら…残業組常連とされる俺は、
もはや此処には居ないから…!!!!
目を血走らせてデスクワークに勤しむ間。
その様子を、離れたデスクでさり気なく見守る人物が居たのを、俺は知っている。
俺がデスクからバサバサと資料を取り落としたりしている間に、
その雑務が少ないどこかの誰かさんは、
涼しい顔でPCに向かっていたことだろう。
「桜庭君。この見積書、特に間違いは無さそうだよ。…桜庭君?」
「えっ、あ、ありがとう!
助かりまーす…」
そしてその人物が、
忙しそうにする俺を見て
珍しく自分でコーヒーを入れに行ったのも、
俺は知っていたのだ。
(あ、あの人が自分で給湯室に…!!)
なんとなしの気遣いに心打たれつつ、
俺は決心していた。
桐嶋さんの気が変わらないうちに、さっさと仕事を終わらせてやる…
何が何でも定時で上がってやるんだよ!!!!
…その日。
オフィス内の全ての者が、
ミスの多かったダメ社員の、
言わば無我の境地を目の当たりにしたという。
ーーーーーーーーーーーーーー
『なぁ桜庭~
同期で集まって飲み行かね?』
「あ。ごめん、俺ちょっと今日は…」
7時半。
晴れて定時きっかりに業務を終わらせた俺は、
荷物をまとめつつ、同じように片付けをしている桐嶋さんのデスクを見つめていた。
久々の残業組脱出と共に、久々に飲みの誘いをくれた同僚達だが、今夜は彼らに構っている暇はないのだ。(ひどい)
『えー用事かぁ?』
『桜庭君、前も来なかったじゃーん』
「うーん…
そ、そうなんだけど…」
不満そうに詰め寄ってくる威圧に引け気味になりながら、桐嶋さんの方をチラと伺う。
バッチリこちらを見ていた桐嶋さんは、
助けを求める俺に、酷く面倒くさそうな顔をした。
「あー悪ぃな。今日こいつ借りる。
…大事な話があるんだよ」
離れた所からする不機嫌そうな声。
俺の周りに集まった彼らは、ザッと脇に避け道を開ける。
『ぁ、貴方様でしたかぁ…
それなら仕方ないよなーぁ』
『最近仲良さそうにしてますもんねーぇ』
貴方様ってなんだ貴方様って。
やはり結局のところ、
桐嶋さんはいつまでたっても、
下の者にはこういう扱い受けるんだなぁ…
ビビりまくる皆の様子を見て、俺は1人呆れていた。
「ああ…また誘ってやってくれ。
じゃ、そういう事だから。行くぞコラ」
おいおい…
この人若干怒っちゃってるじゃん。
「み、みんなお疲れ様!
…俺は気にせず、楽しんできてね!」
桐嶋さんにグイグイと腕を引かれるまま、同僚達に手を振りながらオフィスを後にする。
出て行きざまに向こうの方で、
『桜庭君って優しいから目付けられるのかな…』やら『大人しいのに可哀相だ』やら囁かれてるのを耳にした。
してそれを聞いた仏頂面は、
チッと腹立たしそうに舌打ちを打った。
「別に、帰り合わせてまで説教するわけじゃねーっての…
お前の同僚ってのは、1ミリたりともお前のことわかってねぇのな、猫被り君」
「そ、そうですね。
…俺会社では一応、気配り上手な爽やか優男キャラなんで」
「はっ、相変わらず本性にかすりもしない設定だよな」
吐き捨てるように言って、俺の前をつかつかと歩いて行く桐嶋さん。
その背中を追いかけながら、相変わらずな態度に苦笑いを浮かべる。
「確かに…
あいつらは俺の本当の顔なんて、見た事もないでしょうよ。
………例えば。
誰かに夢中になってるような俺も、
貴方しか知らないわけですからね」
誰も居ない冷たい階段を下りつつ、
さり気なく思いを伝える俺。
桐嶋さんは足を止めず、
しばらく黙り込んでから、
「…ほんと…厄介な奴だよ」
と、ボソリと答えた。
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