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これからは週に1度の約束
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「……屈辱だ」
翌朝。
出勤中、俺の車の助手席。
くたびれた目元に、掠れた声。
いつになくピンと伸びない背筋…
どことなくやさぐれた桐嶋さんが、
深いため息と共に、独り言のように呟いた。
「屈辱…?
なんです今更」
笑い飛ばしながら返すと、
スパンと頭をはたかれてしまった。
「お前みたいな生意気社員の我侭を甘んじ続けてることがですけどー」
我侭とは言わずもがな、昨日の夜のことだ。
俺は「何のことだか」と白を着るように、
小さく咳払いした。
「……桐嶋さんだってノリノリだった癖に…」
ボソボソと言い返すと、
今度は人を殺さんばかりの鋭い眼光が飛んでくる。
俺の言うことは、あながち間違ってはいないだろう。
…本当に嫌がられたのなら、
俺はこの人と同じベッドでは朝を迎えられなかったと思う。
それこそソファとか、地べたに放り出されるとか。
「あの後何回やったと思ってんだ、
どんだけ身体だるいと思ってんだ…
何でお前だけ肌つるっつるになってんだッ!!」
「んぁぁいだいいだい!!
つ、着きました、会社着きましたよッ!!」
ぎりぎりと引っ張られる左頬に奇声を上げながら、恨めしそうな視線を横目見る。
この通り。
俺の方は、抱えてた全ての欲求が満たされたくらい幸せなんだけどなぁ…
「ったく、
堪ったもんじゃねーよ…
今日はお前が仕事手伝えよな」
やがて頬から離された右手は、
手早くシートベルトを外し、鞄を手に持った。
「もーはいはい、承知いたしましたよ」
……
車から一歩出れば、
この人は完全に鬼上司モードに切り替わってしまう。
5分以上待ってから入社しろ、だっけ。
まったく、恋人感ないよなぁ…仕方ないけど。
それに、
次の泊まりはまた1週間後。
それまで、俺にはあまりに長いお預けだ。
出て行く背中を見守ると無性に寂しくなるので、
寒風に吹かれる並木にでも目を移して気を逸らしていた。
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「………あれ。先に行かないんですか?」
「……」
助手席を降りようとした筈の桐嶋さんは、
一向に車を出ようとしない。
不思議に思い、もう一度声を掛けようとすると……
突然、
強引に腕を引っ張られた。
「わっ! な、んっ…」
一切の間を置かず、
口に柔らかいものが押し当てられる。
「ん…」
うっすらと開いた目と目が合った。
(…マジ、か…)
先程まで引きちぎれんばかりに痛めつけて左頬を、今度は優しい手つきでするりと撫でられる。
「ッはぁ…桐嶋さん…」
整髪料の香に混じって、
俺と同じシャンプーの匂いがした。
(うそ…
桐嶋さんが…
こんな会社の駐車場で、キスを? 自分から?)
うっとりとその時間を味わっていると、
思いのほかすぐに離れていった桐嶋さん。
扉際で逆光を受ける男前の顔が、
俺を見下ろしてにやりと笑った。
「…不満そうな顔してんなよ、
心入れ替えろ。
またミスばっかだったら承知しねぇからな」
呆気に囚われる俺の目の前で、
助手席の扉がバタンと閉められる。
ガラス越しに何事も無かったかのように去っていく桐嶋さんを眺めながら、
たっぷり1分間はその場に固まっていた。
(…な、な、
なんつーキス逃げの仕方……!!!!)
こんなのもう、
いい日になる予感しかしないじゃないか
そんな素晴らしいスタートを迎えた…
桜庭樹、久々の出勤である。
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やっと会社来たしw
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