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教えてください、教えて、教えろ
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その後。…
桐嶋さんが帰ってきたのは、終業半時間過ぎ。
ちらほら残っていた社員がデスクを立って続々とお帰りになる中、
俺は余りにも遅い桐嶋さんが気になって、
1人寂しく残り続けていたのだ。
…それこそ忠犬みたいにな。
「お疲れ様です。
随分長いこと掛かったんですね」
「ああ。ちょっとな…
もうお前だけかよ。
待っててくれたのか」
オフィスに入ってきた時は心配するほど疲れた顔をしていた桐嶋さんだが、
こちらを見ると険しい表情をふっと緩めてくれる。
「あーでも、俺まだ残らなきゃなんねぇから。
お前は先に…」
「終わりましたよ、桐嶋さんの分。
皆でやりました」
ポンと肩を叩いて自慢げに言ってやれば、
今世紀最大の感動を受けたという風に目を輝かせる桐嶋さん。
そりゃこの時間に帰ってきた後にあの量の仕事が待っていたら、誰でもどんよりするだろうからなぁ…
この顔を見れば、
代わりに終わらせといて本当に良かったなと思う。
「だから一緒に帰りましょう。
…今日は駐車場までですけどね」
にっこりと笑いかける俺に、
いつもより覇気のない男前が、つられて小さく笑みを零した。
「……」
そして、
黙ったまま、
ゆっくりと俺の身体を抱きしめてきた。
「……桐、嶋さん?」
え、うわ、なにこれ、どうしたんだ!?(歓喜)
いつもはオフィス内でベタベタすることにあんなに抵抗を持つ桐嶋さんなのに。
えらく甘えたになってしまって、相当お疲れなのだろうか。
「……桜庭…もう嫌だ」
ぐりぐりと肩口に頭を埋めた桐嶋さんが、
そんな弱音をぽつりと呟いた気がした。
「えっ。どうしたんです?」
何の気なしに尋ねれば、
「何でもねぇ」と言って俺にしがみついたまま、まただんまりをきめてくる。
一体何があったんだ。
朝はいつも通りビシバシ仕切って鬼上司やってたのに…
俺の前だから弱った所見せてくれるんだと思うと、喜んでしまう自分も居るけど。
「……あの、桐嶋さん」
それに。
今の俺は、この人に向けてとある疑問を抱いていた。
「お疲れの所すいません。
…ひとつ、お聞きしたいことが」
「なんだ」
肩に桐嶋さんの頭を乗せたまま、礼儀を持って姿勢を正す。
「……えっと。では失礼しまして。
物流部の、成宮という人なんですが…」
「あ゙ーーうるせぇ、
そいつの名前出すなよ馬鹿…!」
えええええ
なんか突然機嫌損ねられたんですけど。
ぎゅうぎゅうと腕の力を強めてくる桐嶋さんに、その腕を叩いて参ったの合図を示す。
「あのっ、やっぱりっ…!
な、成宮さんって人に、何かあるんですかっ」
さっきまでこの人が応援に出向いていた先の社員らしいんだけども。
俺が今日1日、気になって気になって仕方がない人物なんだけども。
「少なくとも今は禁句だ!
ムカついてんだよ…それ以上喋ったら首へし折るからな」
……そんな恐ろしいことを冗談味のないトーンで言われてしまうと、
しつこく尋問する気も失せてしまうではないか。
「…わかりましたよ。
じゃあまたの機会にでも……
あれ。」
ふと鼻先を掠めたこの人の襟元。
ふわりと香った匂いに、比較的わかりやすい違和感を覚えた。
「……なんか。香水つけました?」
知識なんて詳しくあったもんじゃないけど…
顔を近づけたらすぐ分かる。
おそらくムスク系の強い、そんな独特な甘さが香ってくる。
「……してねぇけど」
少し間を空けてしれっと返事する桐嶋さん。
俺は目を細めた。
「嘘だ。男物の匂いがしますもん。
俺というものがありながら…なに色気づいちゃってるんですか」
「だっからしてねぇってば!
気のせいだろ」
俺の嗅覚は確かだ。
でも、本当に桐嶋さんのものなのか?
…香水付けるってキャラじゃないだろ。
まぁ。
仮にこの人が、付けていると認めたとしても「へぇ、意外だなぁ」で済む話なんだけど……
何故そんなに焦る。
何故あからさまに俺から距離を取る。
・
・
・
あ や し い
「じゃあ、あれですか?
何かの拍子に、誰かのものが移ったとか? 」
「…っ知るかそんなの!」
つくづく思うけど、
この人の隠し事が下手なのはもはや天性だよな…
匂いひとつにそこまでうろたえる人間がいるもんか。
「…ねぇ桐嶋さん。
禁句人物の件にしても…
さっきから何か隠してませんか」
不安やもやもやした気持ちを押し殺し、
表情で言えば全くの無で言葉をかける。
落ち着いて話し合おうと思ったのに、
どうしてもその俺の声は、
ずっしりとした威圧を帯びていた。
「してねぇけど。
お前こそさっきから何馬鹿なこと言ってんだ」
「ほらまた嘘ついた」
嘘をつく時、言いにくいことがある時…
この人は、返答が遅い。
決まって片手を首に持っていく。
大抵目を合わせない。
虚言癖も、ここまで下手だと逆に正直に見えるってもんだ。
じっと射るように見つめる俺に、
端正な顔が、どうにも居心地悪そうに目を逸らせた。
「何なんだよ一体…
今日のお前面倒くせぇんだよ。先帰るからな」
あーあ。
逆ギレして、逃げてくつもりかよ。
上着を羽織り、鞄を手にした桐嶋さんが、
静かなオフィスをかつかつと歩く。
その腕が扉の取っ手に伸びた時…
俺は瞬時、衝動的、反射的に
動いていた。
開こうとした扉にバンッと手をつき、
振り返った驚き顔の前に、
にっこりと得意の黒い笑みを浮かべる。
・・・
2人しか居ないオフィスの内に、ピリピリと張り詰めた空気感が生まれた。
「何処に行かれるんです、
話はまだ終わってないのに。
俺が穏やかなうちに、
洗いざらい吐いて頂かないと……
…何するかわかりませんよ…?」
強気な目に囁けば、
緊張感に耐えきれず、ごくりと喉を鳴らしている。
「な…何するか、わからないって、お前…」
やがて。
深いため息をつき、断念した様子の桐嶋さんから、
「既に穏やかじゃねぇだろ…」と弱々しい突っ込みが聞こえてきた。
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