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「水、飲みますか」
そう声をかければ、
寄越せのついでに「俺の冷蔵庫だよ」との文句が返ってきた。
放り投げたペットボトルには、水が半分程残っている。
それをくいっと飲み干した隣の男は、
額に滲んだ汗を拭って、力なく布団に身を預けた。
「あ゙ー…今回も今回とてがっつきやがったな…」
「あはは、週で唯一の楽しみなんで」
空っぽだったベッドの脇のゴミ箱に、
使用済みのゴムがいくつか伺われる。
それを横目に苦笑すると、桐嶋さんはぐぐっと眉をひそめた。
「…良く言うな、忘れてたくせに」
忘れてたわけじゃないんだけども。
そんな事をまだ気にしていたこの人が意外で、申し訳なくて、でも可愛い。
「あれ。拗ねてます?」
「馬鹿言え。
…わり、ちょっと外出る」
からかいながら肩を肩でつつくと、
怒ると思いきやあっさり流されてしまった。
シャツを適当に羽織り、既に履いていたズボンのポケットを漁りながら、
ベランダへと足を運ぶ桐嶋さん。
「えっ? でも夜だし、めちゃくちゃ寒いですよ?」
「煙草だよ。先シャワー使っていーから」
「あ。ハイ…」
いつものことと言えばいつものことだが、
どことなく素っ気ない桐嶋さんは明らかにその『いつも』の度合いを超過している。
だからって特にそこにわざわざ突っ込む必要もない。
煙草を吸う為にわざわざ外へ出ると言うこの人を止める債権も。
俺は大人しく、許されたとおり、
洗面所へと向かうことにした。
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して、それから十数分後……
部屋に戻ると、
思いの外人の気配がなくがらんとしていたので、
俺はすぐ、あの人がまだベランダに居るのだということに気がついた。
「うそ……
桐嶋さん、まだ煙草!?」
確かにそこにある後ろ姿を見て、勢いよく掃き出し窓を開ける。
半ば大袈裟に尋ねてみれば、そんな俺とは真逆のテンションで答えが返ってきた。
「いいだろ別に。
ちょっと涼んでただけだ」
「いや、涼むって気温じゃないでしょうに!
あーもう冷え切っちゃってるじゃないですか」
そっと手の甲を頬に添えると、ひんやり冷たい。
さっきまで暑そうにして軽い汗まで掻いていたのが嘘のようだ。
風呂上りでホカホカになった身を寄せると、
桐嶋さんは一瞬だけ俺にすりつくようにして目を瞑った。
「うわ、あったけぇ。んでいい匂いする……けど。湯冷めする前に部屋入っとけ馬鹿。
また風邪引きてぇのかお前は」
そして、容赦なく突き放された。
確かに、濡れた髪はもう既に冷たくなってきているけど。
そういうぶっきらぼうかつさり気ない優しさ、心に染みますけど…
「桐嶋さんも吸い終わったなら入りましょうよ」
とか思うよね普通。1人で部屋にいるのつまんないし。
俺が手を引けば、桐嶋さんは面倒くさそうに顔をしかめて、
「…わかったよ」
と言ってベランダに突っ掛けを脱ぎ捨ててくれた。
よしよし、これで暖かい部屋に誘導することは出来たとして…
「……あの。
何か考え事ですか…?
もしかして、俺の出張中の事、ですか?」
それとなく一番気になっていた部分に触れてみる。
だって、
どう考えても今のこの人おかしいし、
本人は気づいてないのかもしれないけど、こうもあからさまに態度変えられたんじゃ、
俺だって大人しく黙っておくわけにもいかない。
「……別に」
短く発されたその言葉に見え隠れする大きな『嘘』。きっと本来なら、「別に」で片付けられるような話じゃないんだろう。
頭にきた俺は、逃げるように部屋に入って行ってしまったこの人を、
「もーー
なに突然クールになってんだよ桐嶋さぁんっ!!」
ドサッ
と、背後から思いっきりベッドへつき倒してやった。
そして体格の差を利用されるまでもなく、ぎゅうぎゅうと押さえ込む。
「わっ…こら、やめろ!
じゃれんな犬!」
……
ヤッた後は冷たくなる人っているけど、
桐嶋さんは案外そのタイプに当てはまらないし。
だとすれば何か理由があるわけなんだろうけど、この人言ってくれないし。
「俺に隠し事はしないって約束でしょー」
拗ねた口調で言うと、そんな約束した覚えはないと最もな返事が投げられる。
ますますムッとする俺に、
およそ60kgの重量をかせられた桐嶋さんから、軽い咳払いが聞こえた。
「お前と言えど、
人にはプライバシーというものがある。
他の誰にも侵せぬ領域ってもんがだな…」
「それマジで言ってんなら俺激おこですよ。
つーか。会社でオナってた人がプライバシー大事にしてるとは思えませんけどね」
「ぁ、てめ、まだそれ言うか!」
少し前までは真っ赤になって抗議してきた癖に、どうやらこのネタは、
桐嶋さんにとって、最早笑い話にすら出来ない苦い思い出として残されてしまったようだ。
心底嫌そうに歪められた顔がそう物語っている。
「だって事実ですもーん。
桐嶋さんがベランダで夜景にたそがれながら思い悩んでいた内容を教えてくれたなら、もう一生言いません。誓います」
「何それ、不保証過ぎんだろ…」
桐嶋さんの怪訝な反応は正しい。
この人が嘘が苦手だとするならば、俺は正直が苦手だからだ。
爽やかな表面で人の好感度を上げてきたような見せかけ人間だからだ。
……とまぁ、
そんなことはさておきだ。
俺は注意を促すよう、パンと手を叩いた。
「…で。何があったんですか」
「言わねぇ」
どてーん。
思わず漫画みたいにその場にずっこけそうになった瞬間である。
ツンとした素振りはそのままに、
布団に潜り込んで完全無視の体制に入った桐嶋さん。
くそ、わかってはいたが、
なんて強情な人だ……
「もう怒った…!」
無言でその掛け布団の下に両腕を突っ込むと、
手探りに触れた場所を思い切りくすぐってやる。
予想外だったんだろう攻撃に、
桐嶋さんから悲鳴にならぬ悲鳴が聞こえた。
「おいこら、
やめっ…やめろって!!
やめろ馬鹿!!!!」
「ぶっ」
バキッと鈍い音が聞こえ、
ついにスプリングがお陀仏したかと思えば、
俺がベッドから突き落とされた音だった。
後からジンジンと響いてくる痛感に頭を抱え込む。
「きり、しま、さん…
そんな本気で殴らなくても…」
「ネチネチしっつけぇんだよ。
ついでに言うとセックスもしつけぇ!」
…おいおい、
ついでの方が傷つくのは気のせいか!?!?
しゅんとして肩を落とす俺に、
それを見透かしてか「…下手とは言ってねぇ」と不本意ながらのフォローが加えられる。
…なんか今日なんとなく機嫌悪いな、ほんと。
俺また何かやらかしたのか?
機嫌が悪いとわかってから、まず自分の失態を気にするなんて、とても悲しいことだ。
「ねぇ、シャワー浴びないんですか?
…あそうだ、シャンプーと歯磨き粉切れかかってましたよ。明日買いに行きましょう」
「ああ…」
原因がわからなくて不安になって、
つまらないことでもいいから会話が欲しかった。
しかし相変わらず最低限の返答しか返して来ない桐嶋さんに、
今度はただ単に眠いのではという疑問も浮かんできた。
「桐嶋さん。寝るの…?」
「…いや、まだ。
お前は寝てろよ」
むくっと起き上がったこの人は、
風呂場へ行こうとベッドを降りる。
シャワーを浴びないのかと聞いたのは俺なのに、何故か今は行って欲しくなくて、
俺は寂しさの衝動のままに、
桐嶋さんの腰へ抱きついた。
「……何だよ、さっきからベタベタベタベタと」
見上げた先から俺を突く、軽く睨むような視線。
だから、なんでそんなに冷たいの……
本格的に拗ねるぞ……
再びしゅんと首を竦める俺に、桐嶋さんはやはり「嫌とは言ってねぇ」と言葉を加えて、
俺の頭をくしゃくしゃ撫でてきた。
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