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共依存
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───三時間後。
「なぁ…
もういいだろ。もう満足しただろ…
頼むから…これ、外してくれ…」
行為は何度も続いた。
自分の絶倫加減に我ながら驚かされると共に、
桐嶋さんを組み敷いたり上に乗せたり、回数を重ねているごとに…
はじめは罰ゲームでも食らってるみたいだったこの人をの顔が、みるみる快楽地獄に落ちていくのが堪らなかった。
「えー外すの怖いなぁー。
俺のこと怒るでしょ? 殴るでしょ?」
わかりきった事を聞きながら、
俺は桐嶋さんの代わりに会社へ報告のメールを送る。
あれやそれやで汚れたシーツの上。
桐嶋さんの肌に手を置けば、
しつこい刺激を耐え続けた身体がピクピクと麻痺していた。
「怒らねぇ…絶対、殴らねぇ…
なぁ、桜庭……桜庭」
泣きはらした顔ですがるように言ってくるので、ようやく俺は腕の拘束に手を掛ける。
関節でも痛めてないかと若干心配を帯びた手つきで、スルスルと開放してやった。
「っはぁ…」
自由になった両腕をさすりながら、ごろりと仰向けに寝返る桐嶋さん。
殴るなんて、起こるなんて…
そんな気力も体力も残ってないだろ。
なんて言うんだろ、この状態。
牙を抜かれた虎? 茫然自失…?
何にせよ、
いつもの怖い上司は、今ここには居ないということだ。
「はは、流石に疲れましたね。
…あぁそうだ。桐嶋さん」
「……」
返事がない。
目は開いているのに、ぼうっと天井を見つめたまま、微動だにしない。
「おーい。
聞こえてます?」
もう一度声を掛けると、
ぎこちなく向けられた瞳が、定まらないまま俺を見つめた。
「…な…なに」
「もう晩飯近いんで、
俺、なんか買ってきますね」
意識が安定していないらしい桐嶋さんのために、ゆっくりと子供に言うみたいに言葉を並べる。
そして、皺だらけのシーツの裾を引っ張ってみせた。
「シャワー浴びたら、
一階にコインランドリーあるんで、これ洗っといてください」
一度目二度目は持ってきた箱に残っていたゴムをつけた。が、すぐ足りなくなって、以降は生。
シーツの上はとめどなく注がれた精液でどろどろだ。
最悪また一つのベッドを二人で使って寝ればいいと思うものの、コレを放置しておくのも流石に気が引ける。
それこそまるで、
ラブホテルか何かと勘違いしてひと騒動起こしたバカップルの置き土産だ。
ホテルの従業員からすればいい迷惑だろう。
「相当汚れてるんで、先に手洗いしてくださいね」
呆然と俺を見つめる視線に背を向け、部屋の扉へと向かう。
向かおうとして、パシッと手を掴まれた。
「…おい、待て」
上手く力の入っていない手が弱々しく、でも決して振り払われないよう、懸命に握りしめてくる。
俺は間を置いてから振り向いて、にっこりと目を笑わせた。
「なに、どうしました?
まだ物足りませんか」
「違…っ
も…もう行くのかよ」
果たしてその言葉が、その気遣わしげな表情が、
どういう意味を示しているのか当ててやろうか。
こんな自分を置いて、どこかに行って欲しくはないんだよ。
ここまで手酷く抱かれた後もなお、俺に近くに居て欲しいんだ。
冷たくしてるのなんてわざとで、
こういう反応が欲しいから取ってる態度だって。
そんなことこの人にはわからないから、
すぐ思惑にはまってくれる。
「どうしたんです急に…
いつもなら、散々いじめた後の俺は甘くなるから?」
「っ、」
的をついたであろう指摘の後に、
図星をつかれたらしい桐嶋さんのバツの悪そうな表情。
俺はにやりと口角を上げた。
「まさかこの上に甘やかされたいんですか?
さっきまで涎垂らして善がってたあげく? 」
贅沢だなぁ、なんてからかうように笑いかければ、握っていた手は思い切り振り払われる。
「…そんなんじゃねぇ!」
「じゃあいいでしょ。
一々せびるような態度せんでください。
…約束じゃないですか。俺の言うこと何でも聞くって」
「…わ…かったよ」
最後の言葉を聞くだけで、この人はうんざりしたような顔をする。
が、残念ながらそれは、今夜俺が寝るまでつきまとう取り決めである。
「一人で出来ますよね、それくらい。
案外元気ですもんね」
するりと腰をさすれば、
いかなる刺激も記憶した身体を敏感に跳ねさせる。
胸もあれほど弄り回したから、しばらく服が着れないんじゃないだろうか。
「おい触んな」
「おっとこれは失礼しました」
「もう何でもいいから。
早く行って、んで早く帰って来てくれ…」
そう言ってまた送られてくる、
熱をはらんだ視線。
俺はごくりと息を呑んだ。
どんな風に向けられる顔も、
どうも物欲しそうに見えてしまう。
…それは俺の錯覚なのか、事後だからなのか、はたまた……
俺は扉際で再びゆっくりと振り返り、
名残惜しげに見守ってくる人に目を合わせた。
「桐嶋さん。
無理させてごめんなさい。
でも今日、すっごく良かった。
またああいうの…しましょうね」
「…っ!!」
そして、
ここで初めて、緩んだ笑顔を見せた。
多分、きっとこれが普段の俺だろう、という顔だ。
それに対して桐嶋さんは、
堪らなく安堵したような目で返す。
そうだその顔が見たかったんだと言わんばかりに。
…それでいい。
怯えきっているこの人に、
ああ桜庭だった。って、ここで初めて再認識させるのだ。
「ね。
桐 嶋 さ ん」
「……ぁ…あぁ」
そんな俺の様子に絆されて、
最後には、真っ赤な顔で頷いてしまう所が。
「また…させてやる」
先ほどまでの苦痛を忘れ、
本心すら見失ったまま、迂闊な発言を残してしまうところが。
「……はは。
あんたってほんと……」
ほんと、簡単な人だよなぁ…
あの日から、ず──っ…と。
嫌だ嫌だと拒否するくせに、素っ気なくされると不安がる。
だからこそ、反対に甘くしてやると、いとも易々と落ちる。
飴と鞭で翻弄されて、まんまと罠にはめられて…
そんな形でずるずると俺に引きずり込まれて来る桐嶋さんを見るのは、
何より楽しく、痛快だ。
「じゃあ、行ってきます」
「早くしろよ」とまた最後に急かしてくる言葉を聞き、やっと部屋を後にした。
廊下を進む間も、
部屋での桐嶋さんを思い出すだけで、ざわざわと心がざわめいた。
にやけ笑いを誤魔化そうとすると、自然と足早になってしまう。
「可愛過ぎるだろ…すっかり洗脳されちゃって」
強情とプライドをねじ伏せ、邪魔者を追い払い。
長かった先輩攻略の道も、
とうとう行き着くところが見えてきたのかもしれない。
見慣れぬ街をふらふらと呑気に歩きながら、また部屋に戻って来るまでの間…
そんな浮ついたことが、延々と俺の頭を占めていた。
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