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賢者…になりきれないタイム
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いまだ表向きで爽やか好青年を装う身としては、だ。
何処ぞのヤリチンのように、財布の中にゴムを持つ趣味はなかった。
がしかし。
…こっそりカバンの隅の内ポケットに入れておくくらいの俗っぽさは、この俺にもあった。
だから幸い、二人分の白濁でモルタル床を汚したくる事態は避けられたのだが…
何がつらいかって、
行為の後に猛烈に押し寄せてくるこの罪悪感、自己嫌悪の嵐だよ。
・
・
・
「正直、いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってた…」
椅子に座るというよりは、乗っかかった状態で放心している桐嶋さんが言う。
俺が一人で反省会を開いているのを察してか察さずか、
そこまで激高しちゃいないこの人だが、さすがに笑って許してくれる雰囲気でもなく。
ただベルトを締め直しながらしみじみ、「ついにやりやがったか…」と零すだけ。
果てには「なんで俺お前みたいな奴と付き合ってんだろうな…」と独り言のように呟くから、
もういたたまれない気持ちでいっぱいだ。
「ほんと、なんで俺生まれて来たんだろう…」
「いやそこまで責めてねーんだけど」
大体なんだ、職場でセックスをするような不謹慎なバカップルがいるか。
誰かに見つかりでもしていたら公然わいせつ罪で訴えられるところじゃないか。
俺は馬鹿だ、人間のゴミだ。
明日からここに来れない働けない落ち着かなくて仕方ない!!
「…あのな。自分でやらかしといて勝手にへこむのやめて貰えね?
すっっげぇ面倒くせぇ」
なんで俺の方が気遣ってやんなきゃならないんだとぼやきつつ、デスクの上に沈み込んだ俺の頭を軽く叩いてくる。
…意外にも優しい。
そして優しくされると余計に申し訳なさが増す。
「全部忘れてやるよ。
今日限りだって約束するならな」
返事するまでもなく答えはイエスだ。
二十後半ともなれば、若気の至りを言い訳に出来る年齢でもあるまいし。
…うん、やはり俺は馬鹿だった。
「こんな所でするつもりはなかったんですけど、昨日家に寄りながらお預けになったことやらもろもろが相まって…」
どう託けてもかっこ悪い。
一人で赤くなりながら語尾を小さくする俺。
対していつになく穏やかな様子の桐嶋さんが、こっちを見てにやりと笑った。
「ふーん…で。
『こんな所』でやってみて、どうだった?」
今日以後はないけどなと念を押しつつ、
布越しに、ふざけてぐにっと俺の中心を揉んでくる。
いつもなら激怒するはずの場面で笑っているこの人を見るに、
きっと穏やかというよりは、
もはや吹っ切れてしまった感じなんだろうなと思った。
「…………めちゃくちゃ気持ち良かったです」
「正直なやつだなお前は」
だって普段と違う場所って興奮するじゃないか。
デスクワークのための場所。
蛍光灯に照らされる中、広くて雑音もなくて…
そんな明らかに場違いな所でハメ外すのって、それだけで快感じゃないか。
「でも桐嶋さんだって感じまくってたし。
さくらばぁ、そこっやばいっあぁっもっとっ…て言ってたじゃん」
少々盛り気味に言うと、カッと目を怒らせる桐嶋さん。
…あ、やべ怒った。
「ねーよ勝手に言わすな!!
……悪いのはここか? お前の脳内エロ変換機能か?」
「何それ…い゙だだだっ痛い痛い苦しいです!!」
頭を強く抱え込まれる。
何だこれ、ヘッドロック? ハグのえげつないバージョン?
何だかよくわからないまま腕を叩いてギブを訴える。
開放され際に「どうだ参ったか」とドヤ顔を決められたが、なんか満足そうだから良しとしよう。
…俺は酷くむせ込んだが。
「はーぁ…
最中はあんなに可愛いのに…」
「まだ言うかこいつ」
ぐっと拳を構える桐嶋さんから逃げ腰になりつつ、俺は続ける。
「だ、だって桐嶋さんってノッてくるとわりと素直だし…それに。
体制きつそうなのに何度もキスせがんできてくれたし?」
どうやら覚えがあるらしい。
俺にじりじりと迫るこの人の動きが、ピタリと止まった。
「…お前がしたがるから」
「いや桐嶋さんですよ」
「お前だ!!」
俺としては心底どっちでも良いことを、この人はムキになって反論してくるから面白い。
言葉選びすら単純な言い争いに、ついつい対抗してしまう。
「このキス魔!」
「か、隠れ甘えた…!」
「あ゙ぁ!?」
あー駄目だ、いつものパターンになってきた。
…ってまぁ俺が悪いんだけど。
ガツッ…と額同士がぶつかって、一瞬痛みに目をしかめる。
視界の調子が戻った時には、端正な顔が息のかかる近さにあって。
この距離を、今日は何だか新鮮に思った。
……ああ、
「そっか。
立ってすると、普通にするよりキスしにくいですもんね…」
「は、はぁ? だから、
別に俺は……んっ」
何も言わない言わせない。
黙って手を取り、刹那、そっと唇を重ねる。
そのまま柔らかく食むようにして少しだけ表面を舐めると、
桐嶋さんはふらりと視線を泳がせた。
「ごめんなさい…
桐嶋さんの中良すぎて、そういうの考えてられなかった」
顎に手を添えたままにっこり笑ってみせると、その笑みを避けるようにまた目が泳ぐ。
やべ、何恥ずかしいこと言ってるんだ俺…
恥ずかしいことを言う人。その言葉を聞いて、またまた恥ずかしくなる人。
「い、意味わかんねーわ。
こんなとこで無理やりしたくせに、キスのことくらいで、何だよ…
お前、なんか……なんか狡いよ…」
ボソボソと呟きながら、首元から耳まで赤くなってる。
狡いのは桐嶋さんだ。
付き合って数ヶ月。
優しく口付けるだけでこんなウブな反応してくれる27歳が居るものなのか。
「うっは、かーわいいー」
「…るっせ。黙れ死ね失せろ禿げろ」
言い過ぎですと笑えば、
ずっと構えていた拳をドスッと腹に押し込まれる。
そして、
何かわずらわしい付着物でも取り払うかのように、雑っぽく俺を引き剥がしてきた。
「あーくそ、終わりだ終わり! 解散!
ここから後は作業に集中!」
流石に放置しきっていた仕事が気になったのか、再びデスクに掛ける桐嶋さん。
…と言ってもやる気はかなり削がれたようで、邪魔くさそうに乱れた前髪ばかりいじっている。
「ねーぇちょっともう帰りません?」
「うるせぇ」
「俺と一緒に仕事もお持ち帰りってことで」
「うるせぇって。お前だけ置いて帰るわ」
それでも懲りずにベタベタ絡みながら、
「帰ったらもっかいしよっか…
次はキスしやすい体位で」
と囁いた俺に、
今度は容赦ない右ストレートがぶち込まれた。
先に雑務を済ませ、大人しく待ち続けることしばらく時間。
夢の中に意識を飛ばしていた俺の頬を、桐嶋さんが思い切り引っ張ってきたのがいつだったか。
・・・退社、そして帰宅を迎える頃には、
優に深夜1時半を回っていた。
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