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職無し金無し、家は有り
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短い夏が来て、早々に去って行った或る日。
北国ならではの寒さが忍び寄ろうとしている中、淡い金髪をボリボリ掻いて、だらし無く疎らに生えたままにした無精髭の男が、懐の薄い財布を取り出し逆さまに振った。
カツン、カツン、カツン、
木で出来たテーブルの上に転がる硬貨。その硬貨の枚数を水色の瞳が目視で捉える、大した金額ではない。このままでは、冬の間に凍死するのが目に見えている。
「うん、トキワ。仕事…しような。」
トキワと呼ばれた男の前に向かい合って座った、此方は赤茶髪に薄い茶色の瞳の少年、本人にも分からないので判然としないが、歳の頃は15歳程のナツメが言った。
「あー…だよなぁ…。」
はあ…と溜め息を吐く。もう三十路なのに、ちゃんとした格好をすれば中々の男前なのに、腕だって立つのに、…仕事は無い。
北国は冬が長く、寒さが厳しい所為で農作物もあまり育たない。北国民の生活を支えるのは、東国、西国、南国この三つの国には無い、珍しい鉱石物だった。これを他の三国へ輸出し、国益を賄っているが主に食料品へと消え、正直なところ他の国に比べ厳しい生活を強いられている。
「取り敢えず、まだ穀物の備蓄はあるから、あと三週間…僕の給料日までもつといいなぁ…。」
辛うじて家は有る。トキワとナツメ、二人で慎ましく暮らしている小さなボロ家。左隣は大きな薬屋で、右隣はこれまた大きな宿屋、この二軒に挟まれ日も入らず風も通らずと、中々の物件だ。
「ちょっくら、アルバイト探してくるわ。」
「うん。僕も、お隣の薬屋さんの薬草集めのバイト、頑張るから。」
「うす、」
片手を上げ、トキワは職安を兼ねた役所へ空きっ腹を抱え、ふらりと向かった。
そのボロ家での一幕から、三日前にさかのぼる。北国王都の城内にて、密かに面談する三人の姿があった。
「四国同盟を無視し、この北国に攻め入ろうと怪しい動きをしている国があります。」
北国の王キアルは、青い絨毯の敷かれた玉座から厳しい目を、片膝をついて述べる男へ向けた。この男の任は人知れず他国へ赴き情報を探る、言わば間者である。
「良くぞ、その情報を持ち帰った。その国とは何処だ。」
「はい。西国でございます。事は急を要し…」
間者の報告を全て聞き終え、うむ、と王は重々しく頷くと再び間者を西国へ送り出した。
それは信憑性の高い情報と言えた。西国は四国同盟を結ぶ以前、他の国へ度重なる侵略をし、一時期は他国を圧して国境を広げた国でもあった。しかし、他の三国が結託し同盟を結んだ事により国勢は殺がれ、元の国境まで後退し、四国同盟を結んだ経緯がある。
「さて、如何するか…。」
このままでは不味い。王は内心焦った。キアルは若干24歳、先王が病で急死し玉座を譲り受けて半年、西国はそこに付けこもうとしているに違いない。王となり初の、国を揺るがす大事変の予感だった。
「あんの、クソ親父が!」
吐き捨てた。そう言いたくなってもしょうがない、世間には病死と偽っているが、実際は若いメイドに手を出し、年甲斐も無く張り切りイチャコラの果ての腹上死だった。馬鹿である。
「ああ!我が青春!あんなにモテていたのに、最近は公務、公務、公務…。しかも、南国の姫を正妻になんて娶ったおかげで、好き勝手に女遊びも出来ん!あの女、めちゃくちゃ怖いもん!」
もん、じゃなかろう!と心の中で突っ込み、王の側で事の成り行きを見ていた、先王から仕える老秘書が眼鏡を上げた、恐れ多くも…と口を開く。
「ここは、大臣会議を開きましょう。そして、この事態に備え対策を講じるのです。」
「あ!それ、それ良い!」
かくして大臣会議が開かれ、年老いた大臣は夢の中で、若い大臣は手柄を立てる為に、血気盛んに二日に渡り意見を交わし、遂に結論が出た。
ギイッ、鈍い音を立て役所の扉を潜る1人の男。ふらりと壁に寄り、貼ってあるアルバイト情報の紙を、無精髭を撫でながらざっと見た。
兎に角、高額であれば助かる。そこで、今まさに役所の職員が貼ろうとしている求人に目を留めた。
「おい!それ、その求人!俺に頂戴!」
「ああ、これねえ。でも、あんた大丈夫かい?この求人は、傭兵用だよ。」
じろじろと男性職員が視線を這わせる。身長はそこそこある、しかし細い。淡い金髪は優男風のショートカット、無精髭でよく分からないが、案外整った顔。何より宝石の様に薄い水色の瞳が美しい。しかし、服装は簡素な物だった。このアンバランスさ、傭兵には到底見えない。
「大丈夫だ。これでも傭兵なんだぜ?」
肩をすくめる男へ、職員はその紙を渡した。この町から王都に赴き、この仕事の面接を受ける資格は一名分しかない。この国に於いて求人とは、ぶっちゃけ早いもん勝ちなのだ。
「頑張んなー。」
「へぇい。」
優男が気の抜けた返事をして、来た時同様ふらりと出て行った。
「大丈夫かねえ。まあ、無理でも本人がやりたいってんなら、しょうがねえか。きっと面接で落ちるな。」
職員は、男がまた此処にアルバイトを探しに来る日が近い事を確信していた。
「何せ国王の命を受けた求人なんだ、あれじゃあねえ。」
他の町から、屈強な男が集い面接を受ける。ならば、あの優男が残る確率は低い、絶望的に低い。
「さて、次の求人でも貼るか。」
職員はもう一枚の紙、新たな求人を壁に貼り付けた。
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