アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
温泉は、あったまってこそ
-
トキワは、お湯に浸かっている筈なのに一向に温まらない体のまま、握らされた杯を見詰めた。
色んな不安が過る、マリンにはちゃんと謝るとして、問題は、この素敵な穴の魔法を解く時に他の魔法まで解けるのではないかという懸念だ。魔法の事は詳しくない、かと言ってマリンにそれを聞くのは躊躇われる。何故、そんな質問をするのかと疑問に思われるのがオチだ。
「ほら、トキワ。飲んで。」
マリンが美少女然として微笑む。その笑顔にトキワは怯み、魔法の恐ろしさ、いやマリンの恐ろしさに改めて悪寒が走った。これ以上逆らって、また何かの魔法を掛けられてはいけない。慌てて杯に口を付け、ぐいっと呷った。
「あら、いい飲みっぷり。」
「どーも、ははは…、」
トキワは空いた杯を手に白濁した湯の中をじわじわ移動し、マリンとカイから離れる。見知らぬ灰色の髪の男の隣に行き、その背後にある岩に隠れる様に張り付いた。
「トキワ、如何したんだ。」
何故かカイが追ってくる。トキワとしては、うっかり酔った弾みなどでカイの能力を使われたら不味いので離れていたいのだが。
「あ、何でもねえから。カイはマリンの隣に居ろって。ほら、親睦を深めるんだろ。俺はもう充分に深めたし。」
ははは…と誤魔化し笑いをして手を振る。
「でも、まだ顔が青い。」
「大丈夫、大丈夫。あ、それよりさ、」
心配してくれるのは有り難いが、今は早くこの場を去りたかった。トキワは目の前の灰色頭の左肩を叩いた、ちらりと紅色の瞳が横目で見て来る。肩に置かれた手を辿り、トキワの薄い水色の瞳を見据えた。
「ごめんごめん。」
慌てて手を放し謝る、そんな気迫があった。それに、何故か相手の肩が冷んやりしている。おかしいなとは感じたが、今は正常な判断を出来るだけの精神状態じゃないし、もしかしたら自分の肩も同じ様に冷たいのかもしれなかった。何せ、今だに体が温まっている気がしない。
「俺はトキワ。なあ、あんた名前は?」
「紅丸。」
「へえ、ベニマルか、珍しい名だな。私はカイ。君は何処の国から来たんだい。」
カイが話に加わって来る。トキワは、折角だからこのまま紅丸に注意を向けさせ、そっと湯を出ようと決めた。
「…東国の果て、」
「へえ。東国か、しかも果てだなんて!」
トキワは少し後退りながら、紅丸とカイが話すのを眺めた。そこへマリンも加わる。
「あら、奇遇じゃない!だったら彼に渡したらいいわぁ、あの手紙。もしかしたらご近所さんじゃないの。」
「そうだね、誰にも渡さないよりはいいね。届く可能性のある人に託そう。」
カイも、マリンの意見に同意して頷いた。
「手紙?」
不思議そうにする紅丸。その三人の様子を見ながら、トキワはまた少し退がった。
「トキワが持っているから、後で渡すよ。ベニマルの部屋に届けよう。」
「いや、俺が行く。」
そう言って、こっそり湯を出ようと腰を浮かせたトキワの隣に紅丸が並んだ。そのまま湯から出ると、さっさと脱衣所へ歩き出す。
「あ、じゃあ。俺は紅丸に手紙と贈り物を渡すから、二人はゆっくりしろよ。」
この機会に出るしかない。カイとマリンに言い置いて、トキワは慌てて後を追った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 120