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恋愛観は、人それぞれ
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そもそも、常は避妊だけはしっかりとやってきたし、同居人のナツメが思うほど遊んでもいない。
どんなに酒を飲んでも、その行為に及ぶ時にはハッと我に返り堅くそれを守った。もしうっかり子供が出来てしまった場合…その子供の目の色が問題になるからだ。勿論、相手の遺伝的な要素もあるし、常と同じ目の色になるとは限らないが、万が一を考えれば迂闊な事は出来ない。異性と深く付き合わず、一生結婚を避けるつもりだった。
「いやー、ほら、結婚はお互いのフィーリング的な、こうビビッと来るもんがあって始めて上手くいくんじゃねえかな。俺たちは出会ったばかりで、そんな関係に持ち込むには無理があるって、な?…あ、もしかして冗談だった?」
その冗談キツイなー、と付け足して常はへらっと笑う。紅丸は、その顔を見ながら腕を組んで何かを考えている。間が保たず、常の作り笑顔が崩れた頃にやっと口を開いた。
「ん、矢張りお前はその姿が良い。とても似合っている。」
「う…、どうも…、」
いきなり褒められ、気恥ずかしい思いで返事する。以前の容姿も褒められる事はあった。白い肌も、淡い金色の髪も、水色の宝石の様な瞳も、北国生まれの者に比べ小柄でベビーフェイスな常に魅力を添えたが、それを隠す為にあえて無精髭を生やしてもいた。
しかし、いくら褒められたとしても、これ程恥ずかしく照れを感じたりはしなかった。矢張り、仮の姿だという意識があったからだろうか。
「まあ、良い。出会ったばかりが駄目だと言うなら、少し時間をやろう。」
「あーうん。でも幾ら時間をかけても、お互いの気持ちが伴わねえと。好きでもねえのに結婚すんのは難しいぞ、即離婚問題に発展して、別居生活要求ってなるぞ!」
常が人差し指を立てて、もっともらしく力説する。魔物だからと言うべきか、何の気紛れか知らないが、これで嫁発言を撤回し、面倒くさい奴めと見向きもしなくなってくれたらいいのにと願う。
「互いの気持ち…そんなものが必要か?」
「そう!それが大事!」
「ふうん。」
紅丸の表情は特に面倒くさがってもいない、何故か無表情だ。肩透かしを食らう、まあ少しは時間を稼げた様なので良しとした。
「ところでさ、少し腹減ってんだけど…食い物ある?」
果たして魔物は、人間と同じ様に食事をするのか。知りもしないし興味も無いが、昨夜から何も食べていない。
「有るにはあるが…。この東の果ての果ての果てに居る限り、もう食べ物を摂らずとも死なない。病いにもかからず、歳も取らないだろう。」
「え…、でも腹が減ってる気がする。さっき、水も飲んだし、」
「それは、そうしたいと感じる要求を満たすだけの行為だ。水も食事も、唯の嗜好品に過ぎず摂らずとも大丈夫だ。それに、少しの量で満足するだろう。」
そういえばと、水を飲んだ時の事を思い出す。あんなに喉が渇いていたのに、飲んだのはコップの半量だった。昨夜から飲まず食わずの筈なのに、それだけでの水分で満足したし、空腹感も然程強くない。
「嘘だろ。俺の体どうなってんの…、魔物と同じ?いや、本当はあの温泉旅館で殺されて、幽霊にでもなってんのか?」
「いいや、この土地がそうさせているだけの話。例え人間であっても、我らと同じ様に長い時を生きる事が出来る。」
常が目を見開く、
「それって…不老長寿って事?」
「そう。不死ではない、魔物も人間も致命的な傷を負えば死ぬ。だから、怪我には気を付けろ。魔物は早々死なぬが、人間は脆いものだろう。」
「…うん、」
魔物がどれ程のダメージで死に至るのかは知らないが、人間は確かに脆いものだ。常はそれを良く知っている、忠告は聞いておくべきだ。
「なあ、この屋敷の敷地外ってどうなってんの。俺は出歩いても構わないのか?」
「俺の様に強い者と一緒なら大丈夫だろうが、一人は危険だな。頭の悪い奴がごろごろしてる。一瞬で喰われるだろう。」
「へ、へぇ。一瞬で…、」
ゾッと背筋が冷える。それでは普通の人間が、この不老長寿の夢の土地で暮らす事は出来ない。そして屋敷の脱出もまた、容易に出来ない状況に、常は暗澹たる思いがした。
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