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冷たく、温かい
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黒鉄は遠く、遠く、黒い点になり見えなくなった。
「いいなあ…。あんなふうに、何処へでも…、」
行けるならば…。
常は黒鉄を見送った後も、しばし縁側に立って秋晴れの空を見上げていた。
「…よし、気持ちを切り替えよう。そうだ、今日こそ正体を突き止めるぞ、」
この屋敷の謎…紅丸がやっているふうでもないのに、いつも部屋が綺麗に片付いている、いつの間にか洗濯物が干されている…。
常はこの謎に気付いてから、紅丸と黒鉄以外の存在を意識する様になった。更に、時々視線を感じる。振り返れば誰もいない。まるで怪談話の様である。
「昨日は、洗濯物の張り込みに失敗したし…。今日は台所に張り込みすっかなぁ。」
何処に潜んでいようかと考えながら歩いていると、紅丸に呼び止められた。
「常、何処へ行く。黒鉄は一人で出掛けたし、ちゃんとあの約束は覚えている様だが、」
何時からいたのか、黒鉄に棗の様子見を頼んだ件も知られているかもしれなかった。別に隠す気はないが、紅丸がどう思うのか常には分からない。
「うん。ちゃんと出掛ける時は紅丸の許可を貰う…忘れてないから、大丈夫。」
「ならば良い。」
常は気が重くなる、紅丸は何故そうもこの屋敷へ留めようとするのか、確かに一人でこの屋敷を出るのは死を意味する。かといって、黒鉄と何処かへ行きたいと思っても、黒鉄の名を常が口にすれば冷えた空気が漂う。八方ふさがりとはこの事だ。
はぁ…。
常が無意識に小さく溜め息を吐いた。表情も疲れていて、黒鉄に見せた様な明るい笑顔はない。常にとって、紅丸と二人きりというのは、多大な緊張感を伴う。黒鉄にも気を遣っているが、紅丸よりは大らかで接しやすい。
彼らは魔物であり、矢張り人とは違うものだ、その事は忘れてはいけない重要な事柄だった。
「外へ出たいのか?」
紅丸は、黒鉄に言われていた事を思い出した。偶には屋敷の外へ散歩にでも連れ出してやれと、注意されていた。
「……うん、でも…一人では出れないし、」
「一人でとは如何してだ、行きたいなら散歩へ連れて行こう。」
「えっ、一緒に行ってくれんの。」
常はまさか、紅丸がそんな提案をしてくるとは思ってもみなかった為、黒い瞳を大きく見開いた。
「日が明るいうちに行った方が良い。あいつらは、暗くなると俊敏になる。」
あいつらとは、外をうろつく魔物、紅丸の言うところの頭の悪い奴だろうと、常にも分かった。紅丸の気が変わらないうちにと急いで頷く。
「うんっ。」
「ほら、」
手を差し伸べられる。青みがかった白く抜ける様な手の平。そっと握ると、冷んやりとしている。
「紅丸の手は冷たいな。」
「常の手は温かい。」
常が笑みを浮かべると、紅丸も目を細めて顔を綻ばせた。
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