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相容れぬもの、相違なるもの
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常は紅丸の傍らに立ち、ゆっくりと散策しながら、紅葉の始まった風景に気持ちが浮き上がる。緑、そして黄色、木の実もなっている。
「はぁ…、凄いな。北国の山とは色合いが違う。」
「そうか。」
ある一点に目を瞑れば、本当に素晴らしい景色だった。それは、樹々の間によく目を凝らせば、陰に潜む様に輪郭のはっきりとしない魔物が居るという事だ。
形も様々だが、大きさも様々で、じっと常を見詰めて口をモゴモゴさせる。ご馳走を前によだれでも垂れてそうな様子だ、常は背筋がぞわぞわとして肩を縮めた。
「うう…、せめて口さみしい感じで見るの止めて。空想で俺を食べるのも止めて。ああ…口をモゴモゴしないでくれ、」
「大丈夫だ。俺の側に居れば近寄れはしない。」
常の脳裏に弾けた魔物が浮かぶ。確かに、紅丸に不用意に近付けば瞬殺、滅殺、何の跡形もなく消え失せる運命になる。本当に何も残りはしない、空気の中に溶けて行く。
「なあ、魔物は死んだら全部消えてしまうのか?」
「そうだ。」
「…そうか、魔物は不思議なものなんだな。…何だか寂しいな、」
「寂しい?如何してだ。お前は時々、理解の出来ぬ事を言うな、」
紅丸が首を傾げた。常よりも短い少し癖のある灰色の髪が頬に掛かる。秋晴れの日差しが灰色を白銀の様に光らせる。
「そうかなぁ。…俺には紅丸の方が謎だらけだ。きっと、根本的な考え方が違うんだろうなあ。」
人と魔物、生と死。相容れぬもの。
「ふうん。しかし、お前の話を聴くのは好ましい。面白いな、常よ。」
少し前を進む紅丸の横顔を見上げる、よく見れば睫毛も白銀に透ける。左側に立っていた常からは左目が見えた。一足早い、秋深く色付いた、いろは紅葉の色だ。
「紅丸は綺麗だな…。さすが魔物って事かな、人心を惑わせる。」
常の関心した声音に紅丸が驚く。歩みを止めて、じっと肩ほどの位置にある顔を見る。惹かれる様に濃紺の髪を指ですくった。日に触れ、青く輝く。
「ならば、魔物を惑わせるお前は何だろうな。魔物よりも、余程恐ろしい。」
「惑わせる?」
今度は常が首を傾げた。
「お前は美しい。」
常にあたる日が遮られる、冷たい唇が触れた。不思議と嫌悪感は無い、恐れも、緊張も。常はゆっくりと目蓋を伏せた。
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