アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
老秘書の焦り、老医者の苦言
-
老秘書はカツカツと急ぎ足で廊下を移動した。あの少年が倒れているのを食事を運んだメイドが見付け、現在その対応に追われている。
「ああ、何てことだ!あれは大事な交渉材料だというのに、」
もう一つの水色の宝石、その謎を解明するうちに、果ての屋敷の主宛の手紙を運んだ者の中に薄い水色の宝石の様な瞳を持つ男がいた事を突き止めた。男は傭兵を生業とし、四国同盟大臣の言によればその腕前をかわれて選ばれたとの事だが、その男を果ての屋敷の主が連れて行ったらしいのだ。何故か、温泉旅館での目撃情報も得た。
そして大臣会議の結果、今回の同居人である少年を用いての交渉に繋がる。東の果ての屋敷の主の後ろ盾を今後も続けてもらうべく、少年を人質にしようというのだ。しかし、それは賭けでもある。屋敷の主にとって、その傭兵の男の重要度がよく分からない。その男が少年を助けたいと願い出たとして、果たして屋敷の主がそれを聞き入れるのか…。
「全くもって厄介な。本当にあの少年ごときで交渉が上手く行くのか!しかしここで死なれては、交渉も何もないではないか!」
苛々と廊下を進んで半地下へ急いだ。もう既に、医者は呼んである。メイドが先に案内しているだろう。
棗はヒュー、ヒュー、と狭まった気管支が立てる呼吸音と息苦しさのまま、生死の境を彷徨っていた。
「とにかく、この部屋では駄目だ。早く移動しなければ、」
「しかし、王の指示もありますし、」
医者と老秘書が揉めている。
「彼の病には、この環境は最悪だ。そもそも、この病は完全に治るものではない。いかに症状を抑えて上手く付き合うか、それしか出来ないんだ。」
「しかし、」
「全く、何故こんな状況になっているのか。きっと彼は薬湯か何かを持ち歩いてた筈、まさか、それを取り上げてしまったんではないだろうな?見たところ、彼の意思で此処に居るとは到底思えないが、」
医者は、王家御用達の長い付き合いのある老人だ。老秘書に対してもずけずけとモノを言う。
「そ、それは…、」
老秘書が怯んだ。全くもってその通りで、少年の荷物を調べたら水筒に薬湯が入っていた。馬車の中でも咳をした折に、その薬を飲んでいた事は聞いていた。しかし、全く重要視していなかった。ここまで重い病気を抱えているとは思ってもなかったのだ。王にも報告を怠っていた。
「ならば、移動しよう。最上階の空き部屋がある。そこが良いだろう。」
何時からそこにいたのか、青い瞳が厳しい雰囲気を宿す。部屋に灯された明かりで、濃い金髪が鈍く光る。
「ああ、王!」
老秘書が慌てて傍へ避ける。医者とのやり取りを聴かれていたのだ。
若くても王は王であり、跡継ぎとして生まれ育った環境による英才教育と、周囲の者の期待と本人の努力による威厳が備わっている。
「そうですな。それが宜しいでしょう。まだ暫くは予断を許しません。私も側についてます。」
老医者が口調を改めて頷く。
「直ぐに担架を持て!部屋の用意を整えろ!」
鶴の一声だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 120