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夜明けの決意、貴方への恩返し
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チ、チ、チ、チチチ、
黒鉄は鳥のさえずりで目が覚めた。夜明けの朝日が昇り始めている。のそりと上体を起こして頭を掻く。
「ふあぁ、」
欠伸をしながらぐいぃ、と腕を伸ばすと冷たい塔の上で寝ていて強張っていた体を解した。
「…寝過ごしたな。さて、ナツメはもう家に帰っているのか、」
立ち上がり、塔の上から下の様子を伺う。ぐるりと見回すと、城近くの宿の窓辺にカイの姿が見えた。勿論、人間の肉眼では確認出来ない程の小さな影だ。
「お、あいつのとこに行って聞いて来るか、」
早速番傘を取り出し、バサッと広げて塔から飛び発った。
カイは双眼鏡片手にホットコーヒーを飲んでいた。マリンは今寝ている、交代で城を見張っているが矢張り寝不足で気を抜くと目蓋が閉じてしまう。ホットコーヒーの力を借りないと、話し相手のいない静けさの中では、あまり変化の無い風景を見ていても眠くなる一方だった。
ぼうっとなりながら双眼鏡を覗く、いきなり視界が全て真っ黒になった。
「え、」
慌てて双眼鏡を外して見ると、窓の狭い枠に片足のつま先を乗せた黒づくめの男、番傘を閉じた黒鉄が窓を開けてくれと身振りする。呆気にとられたものの、カイは急いで窓を開けて招き入れた。
「何してるんですか…、今まで何処に居たんです?」
「ああ、塔の上でナツメを待っていたが寝過ごしてな、今起きた。」
何の悪びれもない。しかも、マリンとカイの冗談話が当たっていたとは。
棗を心配して交代で見張ってる自分達…この違いが人と魔物なのか、それともそういう性格だというだけの事なのか。どちらにせよ、ここで腹を立てるのは筋違いなので黙って頷く。
「ナツメはまだ城の中だと思います。もしかしたら、通常に使わない秘密の通り道などがある可能性は有りますが、それはきっと王や側近しか知らぬ道、ナツメがそこから出る可能性はないでしょう。」
「ふむ。成る程な、ならばまだ中に居るか…さて、どの辺にいるのか。城は広くてかなわん。かといって鴉を中に放つのは不味かろうなぁ…、」
思案顔の黒鉄に、カイは首を振った。
「…絶対止めて下さい。そんな事したら敵襲だと思われ、要らぬ誤解を招きますよ。ナツメに会うどころではなくなる。それに、もう暫くしたら出てくる可能性だってあるんだし。」
「そうだな。では、暫しここで待つとするか、饅頭さえ渡せば帰れるし。」
黒鉄が顎をさすりながら、カイの隣りで城の門を眺める。
「その、饅頭って何なんですか、」
昨日から気になっていた。
「ああ、常がな。ナツメに食わせてやりたいと言うんでな、」
「はあ…そうですか…。」
カイの想像よりも、常は案外大切に扱われているのではないか…。でなければ、一人間が饅頭を同居人へ食べさせたいと願ったところで、魔物がそれを叶える為にここまでするとは思えない。
「トキワは…大切にされてるんですね。もしも…ベニマルの気が変わって、トキワに危険が迫ったら守って貰えませんか。そして、ナツメの元へ帰してやってほしいんです。」
「ふむ…何故、お前がそれを頼むんだ。」
カイは常の顔を思い浮かべた。何故…理由を述べるならば、常の秘密を見てしまったからだろうか。常はあの温泉でカイの能力を拒否したが、あの後カイはこっそり能力を使ってしまったのだ。それで分かった、彼は今は滅びたとされる東国の先代王の末裔だろう。東国の肌色、先代王と同じ濃紺の髪、そして何と言っても黒い瞳がその証拠だった。
血塗られた玉座とその椅子に座り続ける現王…東国の近代史は四国中に語られ、知らぬ者などいない程有名だった。本来ならば尊い身分の彼が何故この北国で、しかも傭兵などという仕事をしながら身を隠しているのか…。見つかれば彼の身に安寧は二度と訪れない、それはカイにも容易に想像出来た。
「私の命を…北国を救ってくれた恩です。」
「…では、対価に何を渡す。もし紅丸と対峙する事になれば、オレの身も危うい。いや、常を逃すのと引き換えに死ぬだろう。それ程の物事を頼むんだ、生半可な物では承知出来ん。」
「私の、」
「私の、能力をあげるわ。」
割って入ったのはマリンだった。
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