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初対面は、突然に
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「なあ、そういや紅丸は?」
常は緑太と一緒に台所に立ち、渡された食器を片付ける手伝いをしていた。先程食べた栗の甘露煮を入れていた皿を棚に戻す。
緑太は自分の仕事だからと言うが、常はこれから少しずつ手伝いがしたいと申し出た。外出すらままならない身、家に唯居るだけだというのも疲れる。書棚の本を好きに読んでいいと言われているし、それで時間を潰してもいるが、それだけというのも寂しい。
「朝起きて来られてから、出掛けられました。留守を頼むと仰られたので、…少し遠出なのかもしれません。」
本当は行き先に心当たりがあるが、はっきりと言われた訳でもない。不確かな事を伝えるのは憚られ、緑太は遠出であるだろう事を伝えるだけに留めた。
「そっか…散歩に行きたかったんだけど、今日は諦める。縁側で、日向ぼっこしながら本を読もうかな。」
表情が残念そうになった後に、緑太を見て明るく笑む。常はいつも表情豊かで、見る度に不思議な気持ちになりぼうっとなった、その黒い瞳に吸い込まれる様に見返す。
緑太は人里にお使いや買い物に出る事は有るが、大して人間と触れ合う事は無い。短い命と生命力、喜怒哀楽、これが人間なのだと感じた。
「あっ…それでしたら、私と行きましょう。陽の高いうちの少しの時間ならと、紅丸様が許可を下さってます。ですが、絶対に私の側を離れないで下さい。」
慌てて答え、緑太は紅丸に念押しされている注意事項を口にした。きっと外へ出たいと言うだろうからと、頼まれていた。
「え、紅丸が…。」
「はい。紅丸様は、常様の事をいつも気に掛けていらっしゃいますよ。さあ、早速散歩へ行きましょう、日が傾いてしまいます。」
「うん。有難う。」
促されて一緒に玄関へ向かう。紅丸は常が思うよりもずっと、優しいのかもしれなかった。
身一つで空を飛んで来た侵入者は、バルコニーに降り立つと黒鉄の元へ真っ直ぐに歩いて来た。広い窓を開け放したままの所為で、入り込んだ風が灰色の髪を煽る。金の右眼、紅の左眼、透き通る青白い肌。自分へ集まる視線など気にもしていない、此処が王城である事もどうでも良いのだろう。
「おう、紅丸。如何した。」
「黒鉄、ナツメとやらは何処だ。昨日、常から様子を見て来て欲しいと頼まれたのだろう。」
ハッとしたカイとマリンが、棗を背後に庇うように身構える。
「ああ、緑太に聞いたか。」
黒鉄は、のんびりと頷く。あの時、緑太が近くに居たのは知っていたし、隠すつもりも無い。あの屋敷へ住まわせるには、紅丸の許可を得なければならない。
「そ。しかし、常の住んでいたという場所に行っても留守だったんでな、お前を追って来た。此処で何をしてるんだ。」
「オレもナツメが留守だったから、ちと散歩してんだ。で、お前はナツメを見付けたら如何する。」
あの時、常は棗の容姿を語らなかった、きっと紅丸は、このベッドにいる少年が棗だとは分かっていない。
黒鉄の問いに、紅丸の薄い唇の端が上がり、面白そうに瞳が細まる。そのまま廊下の方向を流し見た、閉められた扉の外には二人の人間、そしてそろそろ扉に近付きつつある三人の気配。
「ナツメは常の家族だと聞いた。とても大切な者なのだろうと緑太は言うが……黒鉄、お前は如何思う。常の心を占めるのは俺だけで良いと、そんな存在は邪魔でしかないと思わないか?」
「ふむ。そう来たか…、」
「邪魔だなんて!ナツメを如何するの、」
「ベニマル、トキワにとってナツメの存在は大きいんだ。危害を加えれば、トキワは君を許さないだろう。」
カイとマリンに初めて気付いた様に、紅丸の視線が二人を見た。そして、その背後の赤茶色の髪をした少年も。
ガチャ、キィィ、
鍵を開ける音。そして、兵の手により両開きの扉が開いた。中に侵入者が四人も居るとは思わず、きっと少年はまだ寝ているだろうと、何の気負いもなく国王と老秘書、食事を持ったメイドが続く。
「ナツメは起きたか」
「さて、食事は採れますか…」
王と秘書の言葉が途切れる、
ガシャンッ!
メイドの手から食事を乗せたトレーが落ちた、きゃあっと悲鳴が短く上がる。その音で廊下の兵が部屋の中へ入って来た。
「王!」
咄嗟に秘書が王の前に立ち、不審な侵入者から庇おうとする。直ぐに兵士二人がその前に走り出て身構えた。何故、こんな事態になっているのか、頭の中は混乱しているが、今重要なのは王を守る事だった。
「何者だ!」
「如何やって侵入した!」
眠る少年の部屋の扉守りという簡単な仕事が、一気に様相を変え緊迫した緊張感が漂う。
「ふむ、オレは黒鉄という。番傘で、空を飛んでバルコニーから入って来たが。」
案外真面目に答え、それが何だと言わんばかり。しかも漆黒の番傘を、無造作に羽織りの隙間から取り出して見せる。城側の人間はポカンとした、黒づくめの和装、まるで奇術、それで空を飛んで来たとは何だ。
「ああ…、お前はこの前手紙を寄越した北国の王か。」
紅丸がキアルを見て、直ぐに興味を失くす。こちらは紫紺の和装、紅色の蝶が染められた羽織り、オッドアイの美しい顔立ちだった。
「そして、お前がナツメ。」
紅と金の瞳がカイとマリンの背後に据えられた。目が合い、棗の体にゾゾと震えが走る、何故か分からないがその瞳の奥には、人の気持ちを硬くさせる何かがある。気迫、その様なものだった。
「あ、ああ、王、あれは、」
震える老秘書の声。
「果ての屋敷の主殿…だな。」
王も息を飲んだ。何故、此処にいるのか…手紙は出してない筈だった。
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