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遅れて到着した、紅色の小きもの
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紅色蝙蝠は、常の香りを辿り西国へ飛んだ。緑太の意識も蝙蝠を通して西国入りを感じ、やがて高台の広い敷地の豪華な建物に着いた。もう、白楊の仕業で間違いない。
「常様はどちらだ、」
屋敷の上をぐるりと飛んで、緩やかに旋回しながら窓の中を外から見て回る。三階の出窓が開いている部屋があり、そこから牡丹の匂いがした。蝙蝠はスッと飛膜を傾けて窓辺に寄る、屋敷の中へ入らずに飾り枠にぶら下がった。
「白楊様。」
「緑太、矢張り付けて来おったな。」
緑太の使いの気配を察し、待ち構えていた白楊はわざと開けていた窓を更に大きく開いた。
「入るが良い。」
「失礼致します。常様を返して頂きに参りました。」
蝙蝠は緑太の声で話しながら白楊の近くにある、豪華なスタンド型ランプの括れた金属部分にとまった。
「ふん、それは出来んな。あやつが私に頼んできたのだ、」
緑太はハッとした。あれ程までに常は嫌がっていたではないか、白楊ならばと考えたに違いない。
「もしや、あの事を…常様は何を頼まれたのですか、そしてその対価は何を渡すと、」
「お前は察している様だな。性別を戻したいとあまりにも必死に頼むのでな、あれでは私も無下には断れぬ。ああ、それと対価は仮に預かっておるが、珍かな黒曜石の目だ。心配せずとも約束は違えぬ。契約に則り、魔法が解けぬ時は瞳は返す。」
白楊が扇子を広げ口元を覆った。可笑しくて堪らない、全て本当の事であり白楊には何の非もない。労をせず、果ての屋敷から常を排除する事が出来るのだ。子の成せぬ人間など、紅丸は何の用もないだろう。
「瞳を奪うなど、何てことを!分かっておられるのですか、常様は紅丸様の選ばれた御方様。手出しをしてはなりません。」
「お前こそ、分かっておるのか。一度対価を与え魔物と約束をしたのならば、この契約が終わるまでは手出し無用、紅丸とて手を出す事は叶わぬ。」
「それは…。」
悔しいが、魔物との契約とはそういうものだ。
「せめて、常様に会わせて下さい。」
「良かろう。しかし今は寝ておる故、話は出来ぬかもしれぬが付いて来い、」
「はい。」
緑太は白楊に付いて飛び、直ぐ近くの壁に備えてある扉を開けて入って行くのに続いた。そこは、先程緑太が居た衣装部屋から続き部屋となる寝室だった。寝室と言えども広く豪華な室内、飾り枠の付いた大きなベッドに横たわる人が見えた。淡い金髪、閉じられた目蓋、透ける様な白い頬は青白く澄んでいた。
「常様の髪と肌が…何故この様なお姿に、これでは以前の、」
屋敷に来たばかりで玄関に倒れていた姿を思い出した。そして、今もまた同じ理由で伏せっているのだろう。いや、それに加えて下腹部が痛んでいるに違いない。
「さあ。本人の希望だ。言っておくが、これは何の対価も得てはおらぬ。私とて、そのくらいは叶えてやる、」
蝙蝠は常のベッドの枠にとまり、常の顔を見詰めた。無理に起こすのは良くないだろう。
「常様には、薬湯を準備した方が良いでしょう。私から赤月に指示しておきます。それから、この蝙蝠をこの屋敷に留めても良いでしょうか。」
「ああ、良いだろう。此度の事は後ろ暗い事など何も無く、決して私の独断でやった事ではない、それは常に聞けば分かる事だ。好きなだけ居るがいい。」
「有難うございます。」
蝙蝠はスッとベッドを離れて、赤月の姿を探して部屋を出た。常の状態を正しく伝え、身の回りの準備をさせねばならない。赤月ならば人の事にも詳しく、緑太とも旧知の仲だった。
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