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髪や目の色、肌の色
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日も暮れた頃、棗は東国半ばの宿に居た。今晩は此処へ宿泊し、明日にはいよいよ東の果ての果ての果てに到着予定だ。
「黒鉄さん、東国はまだ少し暖かいね。」
「そうだな、冬の北国に比べればまだまだ暖かい。しかし南国はまだ夏だと聞くが、」
「へえー。南国は凄いね。僕は、多分南国と東国のハーフなんだってトキワが言ってた。目の色と肌の色が東国で、髪の色が南国に多い色だからって。…でも、産みの親が誰かなんてそんな事はどうでも良いんだ。」
棗は脱いだマントを2人分くるくると巻いて、二枚纏めて手際よく紐で結んだ。もうこの国では必要無いだろう。
「僕の家族はトキワだけ、だからトキワの髪や目の色、肌の色が僕の知ってるものと違っても良い。どんなに姿が変わっても、どんなに高貴な血筋だとしても、中身が同じならそれがトキワなんだ。」
これこそ、常の過去を知り、その心情を思い悩みながら辿り着いた棗の答えだ。
「そうか、ならきっと大丈夫だ。見知った外見とは違おうとも、中身が変わる事は無い。」
黒鉄が棗の隣りに立ち、手荷物の中から二人分の着替えを取り出す。簡素なシャワーしか無いが、昨晩は馬車の中での宿泊だった為それでも有難い。
「疲れてるだろ、先にシャワーを浴びて来ると良い。」
「うん、有難う。お先に行ってきます!」
渡された着替えを受け取ると、部屋から廊下に出て共同のシャワー室に向かう小柄な背中を見送る。きちんとそこへ入ったのを見届けて扉を閉めた。
「さて。明日着くと、使い魔を屋敷へ飛ばしておくか。常が首を長くしているだろう。饅頭を渡した事も報告せんといかんな、」
黒鉄は果ての屋敷に常が居ないとも知らず、シャツの下から取り出した鴉を一羽窓から放した。
赤月は主人へ例の件を切り出す為に、書斎を訪れていた。
「いよいよ明日、常様との別れで御座いますね。何だか寂しく思います。」
「…そうだな、」
白楊の中では、明日が別れになるなどとは露程も思っていない。寧ろ、明日は常の身の確保を図る為の一日となるだろう。寂しいどころか、待ち遠しくてならない。
「ここは是非、何か贈り物を差し上げてはどうでしょう。あの様に美しい方です、何の宝飾品も身に付けていらっしゃらないなど勿体無い話。さぞや、お似合いでしょうに、」
赤月の惜しむ声に、庭の散策をした時の、木漏れ日に淡く輝いていた姿を思い浮かべる。
「ふん、悪くない提案だ。」
「私の知人に宝石商がございます。早速今から向かいましょう。何でも、北国産の極上品が入ったと聞きました。」
「良かろう、」
「では、馬車を用意して参ります。」
赤月は一礼し、街中では人間同様に使用している馬車を用意しに出て行った。これで、一時間程は時間が作れるだろう。
玄関の近くの天井にとまっていた蝙蝠に声を掛ける、
「今から出る。」
「有難う。」
緑太は礼を述べ、スイッと天井から離れて螺旋階段の空間を三階へ向けて飛んだ。
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