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路地裏は、迂闊に入るべからず
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「…魔法を解き、次は北国へ行くと言ったろう。」
その声は低く小さく力無い。常は紫の腕から出て、ガバッと頭を下げた。
「それは、本当にごめん。でも家族と果ての屋敷で暮らせるんだ。ナツメが居ないなら、もう北国には行く必要が無いから。」
元より魔法が解けた後の約束事で、魔法を解く契約が無効になった今、北国へ連れて行って貰う約束も無効だ。しかし常は、ここまで協力をして貰った事を本当に感謝している。
「さあ、常様行きましょう。私の使い魔を出しますから。」
紫は緑太の分も自分が動かねばと思い、常を促した。白楊の事は赤月に任せるのが一番良いだろう。
「白楊、今まで力を貸してくれて有難う。契約がなくなったからこの宝石は返すな。」
礼を言った常は、転がったままの二つの宝石を拾い白楊をしっかりと見た。白楊の望み通り漸く視線が合う、黒い瞳は濡れた様に光り、あの果ての屋敷の縁側で対面した時の清廉さを感じた。
「危ないですよ、」
紫が警戒して付き添う中、常は白楊の手を取って水色宝石を渡した。何の未練も無くあっさり離れようとするその手が、ぐっと掴まれる。
「待て、私もお前に渡す物が有る。このネックレスをやろう。」
白楊はポケットから取り出した、見事な細工の高価な宝石を常の首に掛けた。思った通りに、薄桃色のその輝きは常に良く似合う。
「え、でも、」
「良い。お前の為に買った物だ。今日、必ず渡すと決めておった故。」
美しい魔性の微笑み。淡い金色の袍を着た足元から、白獅子がすうっと出現した。使い手の意を汲み取り、ゆらっと長い尻尾を上げる。
「白楊様、このような場所で使い魔を出してはいけません。目立つ事は控えて下さいと日頃からお願いしてますが、お忘れですか。」
「煩いわ!」
煩わしい秘書の立つ場所に向け、言葉と同時に白獅子の太い尾が振り落とされる。普段はふっさりと柔らかな毛が鋼の硬質に変化している。
ドゴ、重い音が地面を抉ってビキビキとひび割れる。獲物ごと見事に圧し陥没した…、
「あーあ、それ後で始末するの私ですよ。」
潰した筈だった赤月は屋根の上に乗り、ネクタイを緩めながらやれやれとさっきまで自分が立っていた場所を見下ろした。秘書の仕事は多岐に渡り、中々一筋縄ではいかない。
しかし、主人の怒りが何処から来ているのか考えれば、これは気の毒とも思える。結局は、捻れた恋心を持て余して怒りに発展しているのだ。
グオオォオォ、
白獅子が咆哮を上げ、紫に飛びかかる。紫の気が逸れた一瞬に、白楊は常の手首を掴んでその胴体をいとも簡単に肩へ担ぎ上げた。
「わわ、」
人の身ではついて行けない早過ぎる動作。気が付けば、紫を飛び越えた白獅子の背に白楊と共に跨っている。
「初恋なのかな、そうだとしたら厄介だなあ。」
「聴こえておるぞ、赤月。」
主人の鋭い叱咤。
「ああ、失礼致しました。」
優雅に屋根の上で一礼し、赤月は身軽に屋根を飛び降りた。胸の前で交差した腕を、空でシュッと振り下ろす。爪が長く伸び、一本一本が鋭い刃物に変わっている。
「然しながら、どちらへ行かれるのです。果ての屋敷ですかね?そこで何するつもりですか?物騒な事は止めて、仕事して下さい。」
白獅子の前に立ち塞がり、いつもと変わらぬ口調の赤月。しかし、その表情は笑ってなどいない。猫目がしっかりと開き、主人を見た。
「あら、私も赤月と同意見です。」
白獅子の背後から、大きな青黒く艶光る蜘蛛に乗った紫が言った。
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