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朝御飯は、なるべく穏やかに
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山の中は探し尽くし、白楊はその下を流れる川の中で常の靴を片方見付けた。そこで白獅子に匂いを追わせ下流に向かったが、川の支流は多く、その近くの村の様子を探るのは白楊の性格では難しい。休息が必要な事もあり、一旦、果ての屋敷へ行く事にした。
程なく屋敷へ着いた白楊は、待ち構えていた魔物達に迎えられた。互いに感情を引き摺らないのも、また魔物故か。靴を手渡し対策を話し合い、漸く汚れて疲れた体を流す為に湯浴みに向かった。
「あれ?またまた、初めて見る人だ。このお屋敷はすっごく広いし、たくさんの人が居るんだね。」
棗は、西国の袍を着た男性が茶の間に入って着たのを見て首を傾げた。風呂上がりで装いを整えた白楊は、先程起きて来たばかりの棗が知らぬ間に屋敷へ到着していたので会っていなかった。
一同は、緑太に用意してもらった遅めの朝御飯を、棗に合わせて食べているところだった。用意された膳の量は少なめで、ここに来てからの棗は不思議と少しの量で腹が満ちる。棗の隣に座った黒鉄、互いに自己紹介の終えた向かい側にいる紫と赤月。そしてその隣に整えられた膳の前に、緑太が白楊を促した。
「何だ、この子供は。」
みんなの視線が一斉に、足を止めた白楊へ向く。白楊は相変わらずの人間嫌いで、眉を顰めている。赤月が主人へ棗の事を説明しようとしたが、それよりも先に当の本人が怯みもせずに言った。
「初めまして。僕は棗です。トキワがいつもお世話になってます。」
手慣れた様子で箸を置き、正座の膝に手を置いてぺこりと頭を下げた。東国の作法は常に教えて貰った事があり、正座も箸使いも問題ない。
「お前が棗……常の子か?」
漸く席に座り、意外な思いで聞く。白楊は棗を子供だと知らなかった。所帯持ちでは無い常の家族だというから、てっきり大人だと思い込んでいたのだ。
「いいえ、僕は捨て子で親はいません。だから、トキワとは血は繋がってないです。正確に言うと、同居人ですけど…でも家族なんです。」
「…私は白楊、普段はそこの赤月と共に西国に住んでおる。」
黒鉄がちらりと見る。白楊にしては親切な事に、名乗った上に居住地まで語る。常の事が、精神に堪えているのだろう。もう棗を攫おうという気など全く無い様だった。
「西国に…、あの。ところでトキワはどこですか?確か、西国から帰って来る筈でしたよね。」
みんなの視線が棗に集まる。昨日屋敷へ着いた時に、常は少しの間西国へ行っていて帰って来る途中だと説明していた。その時はまだ、こんな災難が訪れるとは思っていなかった。
土砂崩れの話は、出来れば朝食を済ませ、落ち着いてから説明しようと思っていた。その為に、この茶の間に集まっているといってもいい。
「常は此処には居らぬ。なんだ、知らぬのか、」
白楊は、この場の空気を読む様な男ではない。白楊が人間とこうも話すとは思わない一同は、口止めをするのを忘れていた。いや、口止めをしたところで聞き入れないだろう。
「え?」
棗がじっと白楊の顔を見た。その先を話してくれと、その表情が語る。黒鉄は息を吐き、自分が先を引き受ける事にする。
「棗。話すべきか迷い言ってなかったが、常は土砂崩れに巻き込まれ行方不明だ。今、探しているが…こんな事になってしまい、本当に済まない。」
「え…、」
薄茶色の瞳が黒鉄を映して揺れる、白楊はその表情を黙って眺めた。
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