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淡き思い、滿ちぬ心
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棗の大学生としての生活は順調で、二年生への進級試験で好成績を修め、飛び級制度で三年生に上がる事になった。棗の予定としては次の進級試験でもそれを狙っている。
白楊からの援助を受けている為、学費は出来るだけ安く抑えたい。元々の意欲も高いので、毎日勉強へ費やす時間はかなりのものだった。
早いもので今は八月、次の進級までの合間の一カ月の夏休み期間である。
棗は果ての屋敷へ帰る事にしていたが、此処を出る前に白楊へ挨拶をしておくべきだろう。相変わらず同じ屋敷に居ても中々会えないので、夕刻の今ならと部屋を訪ねた。
ノックをして返事を待つと、中から扉を開けたのは赤月だった。
「如何されました、棗様。」
「…あの、明日帰りますので白楊さんに挨拶をしたいのですが、」
「ああ…確か黒鉄様が迎えに来られるのでしたね。」
「はい。」
ちらりと赤月が部屋の中へ視線を流す、棗には中の様子など分からないが今は間が悪いのかもしれない。
「出直しましょうか、」
「良い、入れ。」
中から声がして、白楊は濡れた髪からぽたりと雫が落ちるのを構わずに、絹の薄いバスローブ姿で歩いて来た。夏に合わせ足元には麻の絨毯が敷かれていて、素足で歩く足の形に少し濡れている。
「白楊様、もう少しきちんと拭いて下さい。」
「面倒だ、」
赤月が棗を部屋に入れて扉を閉める。思わぬ姿に驚き顏の棗を置いて、その足跡の始まりである浴室へ行き、バスタオルを手に持って出て来た。
やれやれと、白楊を追いかけて捕まえるとソファーへ座らせ、タオルで白銀の髪を撫で、濡れた首筋を拭う。
「きちんと乾かさないと、せっかくの美しい髪がもつれてしまいますよ。」
「ふん、別にお前に迷惑をかける訳でも無かろう。」
「気に入ってるんです。」
しれっと言ってのける赤月、そしてそれを受け入れている主人。何だか棗の入れぬ雰囲気があり、赤月の事を猫だと言っていた黒鉄の言葉が思い浮かぶ。その意味する事は、結局のところ聞かずじまいだ。あまり触れぬ方が良い話題だと感じている。
「あの、まさか入浴中とは知らず失礼しました。後で出直します。」
「良いと言うたであろう。気にするな、用件を言え、」
白楊は相変わらずで、疲れているのか赤月の好きに任せ目を閉じている。
棗が目のやり場に困る程に、前を緩く合わせられた絹は体のラインにしっとりとそって、しどけない魅惑がある。
「明日の朝、黒鉄さんと一緒に果ての屋敷へ戻り一月したら帰って来ます。それから、おかげさまで来月からは三年生への進級が決まりました。」
「そうか。お前は成績が優秀だと赤月からも聞いておる、常もさぞ嬉しかろう。」
ようやく目蓋を開け、白楊は常の名を口にする時に微かに笑う。
ああ…と、棗が少し落胆してしまうのは仕方のない事か、出来れば常の事を抜きで褒めて欲しかったと、まだそれが素直に顔へ出てしまう。
「ええ、常様は棗様をとても御自慢に思っておられます。白楊様にも感謝されてましたよ。」
緑太の使い魔を通して、赤月は棗の事を定期的に報告している。その際に、青藍の様子も聞いていて今は一人歩きが盛んだとか、主人にもそれとなくその成長振りを聞かせていた。
「援助いただき有難うございます。突然、失礼しました。」
深く頭を下げてから出て行く。その淡い気持ちが主人へ向いている事に気付いていても、いつもと同じに知らぬ素振りで赤月は年若い者の背中を見送り扉を閉めた。
「棗様は、この一年で随分成長されましたね。」
白楊は気難しいが、一度自分が許した事には寛容だ。あの南国の夜から赤月が隣を歩く事も、素肌に触れる事にも文句を述べない。赤月がバスローブの紐を解く、
「早くも一年経つのだな。」
「ええ。でも、貴方は相変わらず心が満たされていない。あの宝石は取り戻せたというのに、」
露わになった体はしなやかに目を惹く。隅々まで知っていても、決して赤月のものにはならない。愛なきままに、温もりのない快楽だけを享受するのだ。
「私の事など気にするな。」
「…馬鹿な事を、」
赤月の唇が寄り、重なる。白楊の指がネクタイを解き、シャツのボタンを外す。二人はソファーの上でいつものように抱き合った。
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