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その答えは、僕の中に
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「ナツメ、その溜め息もう聞き飽きた。」
リンドウの指摘にハッとし口を閉じる。明日からの冬休みを控え、二人は古本を扱う露店の前に立っていた。
「何か悩みがあるんだろ、頼りないと思うだろうけど話してみてよ。」
「…ちょっと…魔物の事について知りたくて、」
「魔物…、何を知りたいんだ。」
リンドウは本を読むのが趣味で、初めて二人で行った露店も古本屋だった。何でも興味があれば読むらしく、今は棗の影響を受けて薬学の本を買いに来ていた。
「うん…、滅び始めている魔物を止める方法なんだけど。」
眼裏に、昨夜の白楊の姿が浮かぶ。もう時はさほど残っていない。思い起こしてみれば、白獅子の姿も見なくなって久しい、まだ先の事だと考えていたその考えは甘かったのだ。
魔物の事を知るには魔物に聞くのが早いが、頼みの綱である黒鉄の行方は分からない。大抵ふらりと旅立ち、ふらりと帰る。もう、赤月に聞こうかと考えていた。
「それ、古い文献で読んだ事があるな。でも、何でそんな事を調べてんの。」
「ええと、魔物に…興味があって。ほら、不思議な力を持っているし、容姿も優れているし、人間には無い魅力があるよね。」
思い付く限りを口にして、何とか誤魔化す。まさか身近に魔物が居て、その人が好きなのだとは言い辛い。
「ふうん。何だか詳しいな、実際に見た事でもあるの?魔物といえば、大抵は恐ろしい姿や血肉を喰らうイメージが強くて、そんな事を言う人は珍しい。」
「えっ、そうなの。そんな認識なんだ…、」
「…ぷっ、あっはは。ナツメって面白い。子供の頃に、そんな話を聞いたりしなかったんだな。」
「うん。学校とか行ってなかったし、家族も噂話とかする人じゃなかったから。」
「そっか、まあ良いや…その方法なんだけど」
リンドウは一度読んだ本の内容を、興味があれば正確に覚える事が出来ると言う。その驚異的な頭脳は、棗の欲する知識をスラスラと引き出し諳んじた。
「赤月さん、大学の事で白楊さんに話が有るんですが、夕食の後に少しでいいので会わせて貰えませんか。」
「…分かりました。白楊様に伝えておきます。」
学校から帰った棗を、毎回律儀に玄関先で出迎える赤月にお願いする。二人で廊下を進みながら、ずっと疑問だった事を聞きたくなった。
「あの、不躾な質問なのですが…魔物は強さをとても重視するのでしょう。何故、今もって赤月さんは白楊さんの側を離れないのですか。」
赤月が気に入っているのは白楊の強さの筈だった、ならば今の白楊にはそれが無い。
「さて、その答えは棗様には既に分かっておられる事でしょう。人も魔物も、きっと囚われるものは同じなのです。」
「同じ、なのですね。」
「ええ。」
大学入試後の、あの白昼夢を思い出す。あの黒い影は、今も目に焼き付いている。もしかしたら、もう念願叶ってこの世を発ったかもしれない。
そして白楊もまた、あのネックレスに込めた思い故に、今の姿になってしまっているのか。
「良かった。僕は、きっとそれが知りたかったんだ。」
魔物にも、強さよりも価値のあるものは確かに存在する。愛故に生き、そして身を滅ぼすのだと。
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