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生身には、過酷ってやつ
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やっと地に足が着いた。そこは、東の果ての果ての果て、でかい平屋家屋の玄関だった。
夜空を飛んでいたのは、トキワの感覚では長い時間だが、実際には然程の時は経っていない。それでも生身の人間にはダメージが大きかった、トキワは平衡感覚が狂いまともに立てずによろりとよろけ、これまた広い玄関の上がり框に座り込む。冷えて硬くなった手の平をこじ開け、荷物を落とした。
「おぇ、…ぎもぢ…わる…、」
肩に担がれていた所為で頭がくらくらする、圧迫されていた腹も痛い。トキワは冷えた板張りの廊下に力無く頭を付けて目を閉じ、冷たい手で腹を押さえた。薄い浴衣一枚で風を受けていた為、全身が寒い、カタカタと小刻みに震えている。
非常に拙い状態だったが、襲い来る吐き気と眩暈で動けそうもなかった。夕食を食べてなかったのは、この状況下では幸いだと言えた。
ギシ…、ギシ…、
頭に廊下の振動が伝わる、誰かが近付く気配がした。
「おう、紅丸。もう帰ったのか、早かったな。…何だそれ、」
男の声。そろりと頭を動かし、近くにある黒足袋を見る。黒い着物、トキワは苦労して視線を上げ男の顔を少しだけ見た。短く硬そうな黒い髪が狭まった視界の端に入る。
「常だ。」
「ときわ?…人間だな、何処から攫ってきた、」
「攫ってなどいない、北国の頼まれ事との引き換えに貰い受けた。」
「そうか。…しかし紅丸、こいつ大丈夫か?随分と具合が悪そうだが、」
そうなんだよ…その通りなんだよ、寒いし吐きたいし、散々なんだっての。トキワは声に出来ないまま男に同意して、また力無く目を閉じた。
「そうか?」
「そういやお前、手ぶらだが…土産は、」
「…忘れたな。」
そこで、トキワの記憶は途切れた。
夢現つ、浮上しては沈む意識。浴衣を剥がれ、裸で温かな湯に漂う。
髪を撫でられる。額、鼻、目蓋、頬、唇、耳、首筋、身体の隅から隅まで、細部から細部まで、表面を隙間無く冷たい手の平で撫でられた。その感覚は鈍く、本当に触れられたのか、現実味の無い隔たりを感じる。
「常、」
名を呼ばれた気がしたが、それも気の所為かもしれなかった。
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