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伝言と、紅蝶の手紙
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カイとマリンは一睡も出来ぬまま、常が連れ去られた翌日の、朝一番の長距離馬車に乗り〇〇町を目指した。勿論、常の伝言を同居人に伝える為だ。
「ねえ、この家じゃないかしら?」
日暮れ始めた頃に、やっと到着した〇〇町の大きな宿屋、そしてほぼ隣にある大きな薬屋。その隙間に見落とす程の、小さなボロ家が建っている。
今日はノーメイクで、清潔そうなシャツとズボンを身に付けたマリンは、美少女ではなく美少年だった。ポニーテールにしたピンクの髪が風になびく。
「うん。そうだと思う。」
こちらも金髪を風に晒して、薄いコートを羽織ったカイが、簡素な玄関をノックした。
「はーい、」
トタトタトタ、軽い足音がして戸が半分ほど開いた。赤茶色の髪がひょこっと出る、東国に多い薄い茶色の目がカイと、次いでマリンを不思議そうに見た。
「えっと…どなたですか?」
まだ少年の声、身長もカイの胸程しかない。体も細く、小柄だった。
「あの、私達…トキワと一緒に仕事で温泉に行った者なんだけど…。」
マリンは自分よりも少し低い位置にある顔を見ながら、言いにくそうに口籠る。
「ああ、ラブレターの!もう温泉から帰って来たんですか?でも…トキワは?」
きょろきょろと、二人の背後を探る様に見ている。
「それが、その…君に伝言を頼まれてるんだ。少し、話す時間はあるかな。」
二人の様子に、ナツメは嫌な予感がした。頷いて扉を大きく開き、小さなボロ家へ招き入れた。
先程、西国に忍ばせた間者より火急の報せが北国王城に入った。西国の王が、今朝早く、急に戦を取り止めると宣言したとの事だった。
西国王の顔は一晩で、死相が出ている如く青く削げ、余程恐ろしいものを見たのか目が赤く血走り、紅の蝶が…と、うわ言を繰り返していた。
「これで、何とか西国の脅威は去ったな。」
昨晩、北国王は紅色の蝶の訪問を受けた。蝶は王の目の前で手紙に形を変えた。
それは果ての屋敷の主からのもので、西国の王へも、同様の紅色の蝶が届けられたのだと思われる。あちらは手紙に姿を変えたのではなかった様だが、何にせよ約束は果たされたのだ。
「左様でございますね。」
老秘書が運んで来た紅茶を受け取って、添えてあるローズジャムを垂らし入れ掻き混ぜる。甘くふくよかな薔薇の香りが広がる。晴れやかな気持ちで匂いを楽しみ、上澄みを啜った。
「しかし…あのペンダントの他に、水色の宝石を貰い受けたと書いてあったが、何の事だろう。」
「さて、何でございましょうか…。手紙を届けた者が、何か知っていましょう。後で調べて報告致します。」
「ああ、頼む。」
老秘書が一礼して部屋を下がる。四国同盟大臣の元へ、明日の朝に王城へ顔を出すよう、連絡を取りに向かった。
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