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カイとマリン、そして異国の男
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「ナツメ、居るー?」
声をかけ玄関をノックをしたが誰の返事もない。本日はピンクの髪をツインテールにしたゴスロリ姿のマリンは、ベリーパイを入れた籠を腕に下げ、隣に立つカイを見た。
「留守かしら。」
カイが念の為に玄関のノブを回したが鍵が掛かっている。
「留守だね。また明日にでも出直すか、」
「やん、せっかくパイを焼いたのに…。あ、もしかしたら近くの山じゃない?ほら、薬草を採る仕事をしてるって言ってたでしょ?」
「ああ、そういえば…隣の薬屋のアルバイトだったね。今日も仕事に出たのか薬屋に確認しようか、」
「ええ、」
二人が薬屋へ向かおうとした時、黒一色の和装姿をした体の大きな男が番傘を手に持ち、薬屋の前の道をボロ家へ向けて歩いて来た。
「何…あれ、東国の人よね。ちょっと、良い男じゃない?渋くない?三十代くらいかな?あん、素敵!」
「何かこっちに来るけど…。マリン、私は嫌な予感がするんだ。和装といえば、この前温泉で見たばかりだろう、」
マリンの好みにはまった、異国情緒たっぷりの男が二人の前で止まった。宝石の様な緑の瞳が薄く光る。
「済まないが、ここの家に住んでいるナツメに会いに来たんだが、君たちは知り合いか?」
「…ナツメに?あら、今留守なのよ。ところで、貴方は誰かしら。」
答えるマリンの隣のカイの濃緑の瞳は既に焦点を失くし、その奥から不思議な光が浮んでいる。
「…魔物だ、」
マリンにだけ聞こえる様に小声で囁く。しかし、男にも届いてしまった様だ。
「ああ、特殊技能者か。オレは黒鉄、ここへは常に頼まれてナツメの様子を見に来たんだが、」
「えっ!トキワッ!?…トキワは元気なの?ちゃんと生きてるの?」
「ベニマルは、トキワを如何するつもりなんだ!ここへは、いつか帰って来るのか?」
二人が凄い剣幕でまくし立てる。黒鉄を魔物だと分かっていても、常を心配して臆する事なく迫ってくる様子に好感を持った。
「勿論、生きている。紅丸は常を殺したりはしないだろう、それは心配ないが…此処へ返すのは無理だ。」
紅丸がどれほど自覚しているか分からないが、黒鉄が思うに、あの執着振りでは常を放すとは思えない。何せ初の嫁候補だ。
「そんな…。もう帰れないなんて、」
「やっぱりあの時、もっと強く止めてたら、」
「ふむ。お前たちは、紅丸が常を連れて行った時に同席した人間か。残念ながら、紅丸に逆らわなくて正解だった。邪魔していたら、お前たちは此処に居なかっただろう。常は、きっとそれが分かっていた。人にはどうしようもない話だ。」
黒鉄には、その光景が目の前に浮かぶ様だった。きっと、容赦なく二人を瞬殺し常を連れ去ったに違いない。抵抗しても、しなくても、常がこのボロ家へ帰る道は無かった。
「さて、ナツメは何処へ行ったのか、オレは饅頭を渡さんと帰れん。」
「……きっと、近くの山だと思うわ。薬草を採る仕事をしているのよ。私も、あの子に用があるから一緒に行くわ。」
「私も行く。薬屋で居場所を知らないか尋ねてくるから待っていて、」
隣の薬屋へ行こうとするカイを黒鉄が止めた。
「いや、いい。ナツメはどんな奴だ、」
マリンは、ナツメの容姿を頭に思い浮かべた。
「赤茶色の髪と、薄い茶色の目、東国系の肌色。私よりちょっと背の低い、小柄な少年よ。」
「ふむ。」
黒鉄は番傘をバサッと広げると空へ放つ。高く上がった傘が空中でバラバラに崩れ、それぞれに翼を広げた。旋回する黒い鳥の群れ、よく見れば鴉だった。
「わ、」
「傘が、」
「行け。」
黒鉄の一言で山からそれ、黒い集団が別の方向へ飛び始める。そっちは王都へ続く道だ。
「おう。如何やら、薬草採りじゃなかったみたいだな。」
「何故、王都に……嫌な予感がする、急ごうマリン。」
「ええ。」
マリンとカイが、玄関の脇に繋いでいた自分たちの馬に飛び乗る。黒鉄は羽織りと着物の隙間からもう一本、黒い番傘を取り出した。
「悪いが、先に行く。」
バサッと広げ、地を蹴った。
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