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尾行と、張り込み
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ガタッ、ガタッ、ゴトッ、
三頭立ての高速馬車が派手に揺れ、土煙を上げて凄い速さで王城への道を進む。棗の隣には兵士だと思われる屈強な男、そして向かい側にも同じ様に無愛想な厳つい男が乗り合わせていて、逃げるのは難しい。山での薬草採りの合間の、昼飯時を半ば強引に連れて行かれている。
ケホ、
小さく咳が出る。
「すみません。あの、薬湯を飲んでも良いですか。水筒に入れているんです。」
ジロリと睨まれた。棗の持ち物、薬草入りの水筒とパンと薬草が収められた布袋は、向かい側の男が預かっている。
ケホ、ケホ、
棗が口を手で覆う。厄介な事に、一度出始めると新たな咳を誘発し、止まらない。
ゴホ、ゴホ、
益々酷くなる様子に向かい側の男が、棗の隣の男と目配せし頷いた。布袋から水筒を出して棗に差し出す。
気付いた棗が水筒を受け取り、咳の合間で苦心しながら薬湯を啜った。
「っ…はぁ、」
詰めていた息を吐いて、前屈みの体を馬車の壁に凭れさせた。目を閉じて、呼吸を整える。力の入ってない棗の手から、また目の前の男が水筒を奪った。
トキワ、僕は如何なるんだろう。
心の中の問い掛けには、答えなどない。何故、王城に呼ばれるのか。こんなに、強引に連れて行かれる様な悪事を働いた覚えは無かった。
やがて馬車が失速した。棗の隣の男が布で覆われた車窓の隙間をちらりと覗き言った。
「着いたな、」
馬車が止まる。外側から扉が開いた。
「降りろ、王が待っている。」
外で待ち構えていた兵士が、有無を言わせず棗の腕を掴んで引き降ろす。小柄な体は簡単に引き摺られ、王城の中に消えた。
「此処か、…ふむ、城だな。」
無数の鴉が城の屋根に止まっている。黒鉄は国旗が掲げられた塔の上に立ち、腕を組んだ。
「さてと、この城のどの辺に居るのやら。」
黒鉄が手の平を上空にかざすと、鴉がバサバサと集まって来た。無数の翼が重なり、繋がり、やがて小さく纏まり一本の漆黒の番傘になった。それを風雲模様の羽織りと着物の間に押し込むと、もう何の跡形も無い。
「しかし、面倒臭いな。饅頭を渡さんといかんというのに、全く。」
顎をさする。空を見れば、早々に北国の短い陽は傾き始めている。
「はぁ…。陽の明るい内に帰るつもりが、これは長引きそうだな。さて、少し待つか。何の用かしらんが、そのうち出て来るだろう。」
黒鉄は欠伸をして寝転がった。
「だから!ここに来てるでしょ。ナツメっていうの、赤茶色の髪の少年よ。」
「だから、答えられないと言っているだろう。しつこい、職務の邪魔だ退け。」
マリンは、火の灯り始めた王城の門前で邪険に押されてよろけた、ムッとする。ピンクの手鏡をベリーパイの入った籠からさっと取り出した。それをそっと制してカイが首を振る、直ぐに緑の目が焦点を失くしてじっと兵士の顔を見た。
「もしガキが来てたとしても言わねえよ。俺は唯の門番だ。むやみに訪問者を明かす訳にはいかねえんだよ。それが、俺の仕事だ。」
彼の言い分は正しく、本当の事だった。カイは門番が何も知らない事を能力で確認して、マリンに頷く。
「そうね、ごめんなさい。よく考えたら、誰かに聞かれてホイホイ答えるなんて職務に違反するわね、」
マリンが物分かり良く門番に同意して頷く。
「分かったら、どっか行ってくれ。」
「ええ、失礼しました。もしかしたら、入れ違いで家に帰っているかもしれないわ。行きましょう。」
カップルの様にカイの腕を取る。二人はさっさと正門から離れて、近くに繋いだ馬を引くと角を曲がった。門番の死角に入る。
「暫くここで出て来るのを待とう。あの門番は、ナツメの事を知らない。きっと馬車か何か、姿を隠した状態で秘密裏に連れて来られたんだろう。」
「ええ。きっと、そのうち窓を覆った馬車が出て来る筈だわ。そしたら、ナツメを家へ送るのを見届けて、今日は隣りの大きな宿屋に泊まりましょう。」
既に薄暗くなっている。此処から馬の早駆けで飛ばしても、〇〇町に着く頃には夜遅くになるだろう。
「そうしよう。もう完全に日が暮れる、じきに出てくるさ。」
しかし二人の予想は裏切られ、幾ら待てども、ナツメを乗せた馬車が城から出て来る事はなかった。
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