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その花の、香りの名
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「あら、常さん…いえ、常様は綺麗な方ね!」
紫はベッドに眠る常の側に立ち、紫の瞳を輝かせた。人間の男性は好きだが、両性を持ち合わせているとなると話は違う。しかも果ての屋敷の御方様。紫の中では自分と同様に、女性と認識して常を見た。
「ふん。人間など、大して変わらぬ。」
白楊は常の寝室に備えてある、二人掛けのテーブルセットで赤月の淹れたハーブティーを飲んだ。赤月は緑太の指示により、常の為の薬湯も用意して部屋を訪れていた。そろそろ起こして飲ませた方が良い。
「私は早速買い物に行って来るわね。常様の服と靴のサイズを知りたいけど、緑太は分かる?」
「はい。ですが、少しお身体の幅が小さくなっておられると思います。」
「そうよね。起こして、一度測った方が良いわね。白楊様と赤月は部屋を出て頂戴。緑太は…大丈夫ね。視覚を閉じてて貰えればいいわ、」
「何故出る必要が有る?」
白楊が面倒だと言わんばかりにティーカップをテーブルへ戻した。
「白楊様、常様を唯の男性だと思っては駄目です。女性として考えて下さい。親密な関係でもないのに裸を見るなど、白楊様の品性が疑われますわ。」
「白楊様、ここは世話係である紫さんの言い分が正しいです。さあ、行きましょう。」
ティーカップを盆に載せた赤月に促されて部屋を出る。ジロリと白楊が秘書を見て、不満そうにしている。
赤月としては、その反応や常の寝室に入り浸っている主の方が不思議でならない。いつもなら人間臭いと文句を言う筈が、常から放たれる花の様な香りを甘受している。
「白楊様、下に参りましょう。美味しそうな宝石を用意しております。」
螺旋階段を二人で降りる、チリンチリンと白楊の腰に帯びた扇子から垂れる鈴が鳴る。
「それで、私に手配を頼みたい事とは何でしょうか。」
「この西国で魔法を使う特殊技能者を探せ。常が性別を戻したいと申すでな、」
「はい。」
それは予め緑太からも聞いていた事だ、今の水色宝石ではなく常の本来の瞳と交換の約束だと言う。元からの盲人ではない…では尚更に慣れぬ環境と慣れぬ感覚に不自由な思いをする筈だった。
「白楊様、常様は紅丸様の選ばれた御方様と聞きました。」
「…そうだな。」
「何故、性別を戻す必要がお有りでしょうか。男の身では子を成す事など出来ませんのに、」
「ほう。確かにな、お前の言う通り戻す必要などない。…然らば、本人はその様な気持ちが全くないという事であろうな。」
「まさか、御方様になるのが嫌だと、」
「そうであろう?紅丸はきっと無理に屋敷へ留めておったのだ。はははっ、面白いではないか。最初から、あれは逃げるつもりでおったに違いない。」
紋紗の扇子がパッと拡がり、チリリンと鈴は美しく音を奏でる。足を止め薄桃色の瞳が三階を見た、唇は笑みを象り何故か心が弾む。
常の気持ちは紅丸に向いてなどいないのだ。あれ程までに紅丸が白楊を牽制したのは、そういう事だったに違いない。
「牡丹の香りとは、中々良い。」
「ああ、これが牡丹の…私は詳しくなくて、」
赤月も花の香りを辿り三階を見た。その存在は主人である白楊に変化をもたらし始めている、そう感じた。
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