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ふわふわ、サラサラ
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常は名を呼ばれながら体を揺すられて目を開けた。しかし何も見えず、自分の瞳が宝石に変わっている事に思い当たった。
「あ、常様。目が覚めましたか。」
「…誰?」
「紫と申します。今日から暫く常様のお世話係となります。宜しくお願いしますね。」
白楊に頼んだ女性の働き手だと理解して頷いた。手を握られる。冷んやりとして、その体温の低さに紅丸を思い出した。魔物は全て男性…だがこの声は女性のもので、手の平も小さい。しかし、この手の冷たさは魔物に思える。
「うん、宜しくお願いします。あの変な事を聞いてもいいかな、紫さんって…人間?」
「いいえ、私は魔物。でも女性として生きてますからご心配なく、常様のお体の事は良く分かります。それに強い味方もいますから。」
そう言ってベッド枠にとまった蝙蝠を見る。
「常様、お体は大丈夫でしょうか?」
「あっ、緑太。何で此処に?」
「私自身は果ての屋敷に居るのですが、今は使いの姿を借りて話しております。」
「使い?そうか…あの、体調は寝たら落ち着いて来たけど…ごめんな勝手な事をして。ずっとこの魔法をどうやったら解けるかって考えてたんだ。それにナツメが心配で、」
「常様、どうか謝らないで下さい。その事はもう良いのです。棗様の件は、私も気に掛けております…黒鉄様が戻り次第報告致しますから。」
まだ棗が果ての屋敷に来る事は言えないので、二人の到着を一刻でも早くと祈るばかりだ。
「有難う。…紅丸は戻って来たのか?俺の所為で叱られたりしてないか?」
常の表情が曇る。今更ながらに緑太の役目に思い至った。あの時は屋敷を出る事に夢中で、考えられずにいたのだ。
「大丈夫ですよ、紅丸様は怒ってなどないのです。寧ろ、その御身をとても気遣っておいでです。」
「そうか…紅丸、」
小さな呟き。常のキラキラと輝く薄い水色宝石の目は焦点が合っていない。緑太はその事が悲しかった。唯一無二の瞳を対価にするなど、これ程までに常を追い詰めた事をどう謝罪すればいいのか…。
「緑太。使いを触っても良いかな目が見えなくて、」
「はい。」
常が紫の助けを借りて身を起こし空に向かって手を伸ばした。紫は常の手の平を上に向けて蝙蝠が乗り易いように支えた。蝙蝠が枠から飛び、手の平に収まる。思わぬ小ささに、そっと優しく触れる。
「えっと、小っちゃくて…ふわふわしてるけど、サラサラの肌みたいな感じのこれは何だろ。気持ち良い。」
「それは飛膜ですね。私の使いは蝙蝠なのです。庭のいろは紅葉の葉を借りて作りました。」
「へえ!じゃあ紅色?」
「はい。」
「綺麗だろうな。魔物はみんな凄い技があるんだな。」
常が感心する。やっとその口元に笑みが浮かんだ。
「さて、常様そろそろ体のサイズを測らせて下さい。私は服や身の回りの物を色々用意しなくてはなりませんから。緑太の使いは此処に留まります、たくさん話す時間は有りますよ。」
紫が微笑んだ。常は気難しくもなく、親しみやすそうな人柄に見える。これなら互いにうまく馴染めるかもしれない。それに腕の振るいどころのある容姿、正に彼女に打って付けの仕事だった。
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