アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
女の勘と、仕える者の務め
-
「紫さん、昨晩は有難う御座いました。」
蝙蝠がカーテンを開ける紫の近くを飛びながら礼を言った。朝日はいつの間にか雲間に隠れ、湖も鈍い光を湛えて揺れている。
「良いのよ、私は紅丸様への協力は惜しまないわ。」
昨晩、紅丸がこの部屋に侵入したのは緑太と共に居たので知っている。しかし白楊には言うつもりは無かった。今の白楊は少し危うく思われる。これは、女の勘だ。
「今日、白楊様との契約が終われば早々に常様と果ての屋敷へ戻ります。」
紅丸は昨晩説得すらしなかっただろう、しかし緑太は常を果ての屋敷へ帰らせるつもりでいた。その様に赤月と紫にも伝えている。
蝙蝠が常の眠るベッドの枠にとまる、紫も常のベッドへ近寄り、まだ目蓋を閉じたままの常を見詰める。
「そうね、目が見えないのでは何処へ行くにも一人では不便だわ。私の使い魔で果ての屋敷へ送りましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。蝙蝠の背に乗せましょう。」
今は手の平サイズだが、大きさは自在に変える事が出来る。ただ大きければ大きい程、数も沢山であればそれだけ魔力を要するので、緑太はこのサイズで常用している。紅丸や黒鉄、白楊の妖力は規格外だ。
「ああ、それが良いわね。私の使い魔では怖がられてしまうかもしれないもの。」
紫は悩し気に溜め息を吐いた。通常通りの大きさなら然程問題無いが、人を乗せるとなると…少々視覚的に不味いと思われた。
「…ん、…紫さん、緑太、おはよう。」
話し声につられたのか、いつもより随分早い目覚めだ。
「おはようございます。申し訳御座いません、起こしてしまいましたか、」
緑太は体を起こす常へ謝った。紫が常の手を取り、ベッドを降りるのを手伝いながら挨拶している。
「今は何時頃だろ。また寝過ごして昼になってないか?十時に出るって言ってたから急がないと、」
常は昨晩気を失った後、北国の夢を見なかった。夢に囚われる事もなかった為、自然に目覚める事が出来たのだ。
「大丈夫ですよ、まだ朝の七時です。これから朝食を済ませて着替えても十分に間に合います。」
紫が近くにあるテーブルセットの椅子を引き、常を座らせる。出店で粥を買って来ると言い置いて席を外した。
「常様、今日の衣装は襟元のしっかりと隠れる服に致しましょう。外は曇っております、少し冷えてる様です。」
「そうなのか、見えなくて分からないけど…雨は降りそう?」
「いいえ、雲が多いだけです。」
「そっか、良かった。外出するなら雨は降らない方が良いもんな。」
実のところ気温がそれ程低い訳ではないが、白く細い首筋の下の方に肌を吸われた痕があり、それを人目に晒すのは如何かと思ったからだった。
緑太の心配を他所に、紅丸と常の仲は上手くいっている様だ。今回の両性を解く魔法で男性に戻ったとしても、二人が睦まじくしていれば、いずれはまた両性を受け入れてくれる日も来るかもしれない。果ての屋敷の主へ仕える者として、後継者問題は重要課題だ。
ならば後は、棗さえ果ての屋敷へ到着すれば何の問題も無かった。
いろは紅葉の樹の下で、果ての屋敷に身を置いている緑太は西国と違い晴れた空を見上げる。あとどれ程の後に二人は此処へ来るだろうか、早い到着を願うばかりだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
61 / 120