アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
三連星の、三つ目の夢
-
「棗様っ、お止め下さい!」
まだ寝付いて直ぐの事。緑太は、自分の叫びで目が覚めた。はぁ、と息を吐いて身を起こす。それは凶夢としか呼べない内容で、あまりの事に両手で顔を覆った。
「素敵な夢を見せると聞いたのに。…まさか今のが現実になると、」
枕元の三連星の髪飾りを手に取れば、ボロリと手の中で崩れた。
「あ、」
一度目はまだ先に起こる予知夢の様な内容、二度目はその日に起こる事。どちらも棗にとって新たな出会いを暗示する内容だった。しかし、三度目は…。
「まさか、もう既に起こった事を…、」
急いで布団から出ると縁側の障子を開ける。寒い空気の中、寝衣一枚の薄着で庭へ出て手近にある草の葉を摘んだ。
「棗様の元へ、」
両手を広げれば、濃い緑に少し霜焼けしている茶色が混ざった蝙蝠が凄い速さで飛び立つ。
「三度目は、その人の最期の時を見せるとでも言うのか、」
確かに購入したのは棗で、緑太はただそれを貰い受けた。噂通りに、元々そんな力を宿した髪飾りだったのか、それとも棗の気持ちがこもり緑太が愛用する事で力を得たのか。
「棗様、」
事実を確認するまで常に告げるのは待つべきか、今直ぐにでも伝えるべきか。緑太は迷い、暫し月の無い夜空を見上げていた。
赤月の導きで西国の屋敷に入った蝙蝠は、棗の休む部屋へ移動していた。
妖力を取り戻した白楊が傷口を塞いだが、心臓の端を掠めた傷口を癒すのは中々の難業だった。白楊が付いているが、まだ意識は回復していない。しかし白楊の強い妖力が有ったからこそ、一命を取り留めたのも事実だった。
「しかし、何故棗様はこの秘術を知っていたのか、…魔物であればこの方法を本能で知っている。しかし、決して言わない。」
「うん。夢で見たけれど、誰かにこの方法しか無いと教えられたみたいだった。」
あーくそ、と赤月は眉を顰め、オールバックの赤髪が乱れるのも構わずに苛々と髪に触れた。きっと、棗の身近な魔物ほど固く口を閉ざすだろう。
「ああ、例の貝の夢か。…しかし良かった、白獅子を果ての屋敷へ走らせようとしていたんだ。」
「そうか、白楊様はすっかり妖力が戻られたのか。」
それは、とても皮肉な事だ。永く生き、疲れて滅びに向かう魔物程、その秘術を施されるのを嫌う。
しかし人は、その思いとは裏腹に短い命を投げ出してまで救おうとする。それは愛する故の行動なのだ、そして受ける側もまた愛する故にそれを良しとしない。
「今、紅丸様と常様がこの地に向かわれている。秘術の事は、常様には知られない様にしないと…紅丸様は決して望まれ無いだろう。」
「ああ。心得てる。」
もしもの際に、常が紅丸や青藍の為に命を投げ出してしまう様な事態は、必ず避けなければならない。
「紅丸様は、もう察しておられる。後は、白楊様の口止めをしておくべきだろう。」
緑太の言葉に、赤月は溜め息を吐いて言った。
「…今一番、それが身に染みて解っているのは白楊様だ。」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
101 / 120