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親子喧嘩は、大概にしろ
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白楊は部屋へ単身で入って来た青藍を見て、外に居る初めての魔物の気配に眉をひそめた。
どんな用件でこの屋敷を訪れたのかは知らないが、白楊は棗を守る為に部屋に留まっている。大抵の魔物であれば、赤月で事足りるという信頼もあったからだ。
「常は如何した。」
「おそとにいる。」
「全く、相変わらずの無謀者よ。お前はベッドの上でじっとしておれ。」
促された青藍は草履を脱ぎ、よいしょと棗のベッドの上にあがった。それを見届け、白楊は庭に続く大きな窓を開けると外の音へ耳を澄ませて様子を伺う。
「?」
青藍は、着物に包まれた膝にコロコロと当たる丸い粒に気付いた。幾つか転がるのを目で追いかけ、小さな手で摘む。触ってみれば大好きな宝石だと分かり、自分の口へ入れようとしてはっと手を止めた、寝ている棗が目に入る。
「なつめもどうぞ、」
常はいつも、自分よりも先に青藍に食べ物をくれる。それで、自分もそうするべきだと思った。
「はい、あーん。」
少し開いた唇の中に、小さな指は五ミリ程の透明の宝石を落とした。
「あのさぁ、取り敢えず喧嘩は止めて、中で話すとかさぁ、…全然聞いてないなあ。」
二人から離れた場所に立ち、呼びかけてみる。もう、常の肉眼では捉えにくい程の動きを見せ、蹴り合い、殴り合う。とにかく残像がぶつかる一瞬を目に残すだけだ。赤月も相手も使い魔を出して無いだけ、まだマシなのかもしれない。
「なあっ!とにかく喧嘩は終わりっ!ナツメが寝てるんだから、見舞いなら大人しくしてくれ。」
常が声を張ると、赤月の動きが止まった。ガシッと竜胆の首を固めて、申し訳無さそうに頭を下げた。
「大変失礼致しました。この者は今直ぐに外へ出して来ますので、常様はどうぞ中へ戻られて下さい。」
「何だよ!帰らねえぞ!」
焦げ茶色の半ズボンから覗く足で地を蹴る、鉄棒の要領でぐるりと赤月のスーツに包まれた腕を回り、少しの隙間が出来た所から頭を抜き飛んだ。常と赤月の中間に着地し状に、ばっと手を振る。
ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、竜胆の体を囲むようにして朱い炎が宙に浮き、くるくると回り出す。
「狐火です、屋敷の中へ!」
「え、狐火?」
驚く常には構わずに、竜胆はその炎を赤月へ向けて飛ばした。赤月が長い爪を出してそれを切る、
ボンッ、ボンッ、
切れば散り際に爆発し、赤月の頬に炎が掠め猫目が鬱陶しそうに細まる。それでも反撃をせず受けの一方だ。
何故赤月がその場で攻撃を受けたまま動かないのか…。最初は侮られているのかと思ったが、そうでは無い。竜胆はちらりと、玄関へ向けて走り出した常を流し見た。
「ふうん、自分に俺を引きつけてあの人間庇ってんの。今付き合ってるのってもしかして…で、さっきのが二人の子供とか、」
それで、母親の再婚話にもあんなに冷たい反応をしたのかと合点が行く。しかも、自分とは違い同じ屋敷に住み、一緒に子育てをしてるというのか。
今迄ずっと堪えてきた父親の存在を求める気持ちや嫉みが溢れ出す、それでも赤月が一人でいるのであれば我慢出来た事だった。
「くそっ、」
それは全くの勘違いだったが、竜胆には常の正体など分からない。常にとっては全くの濡れ衣だが、そうに違いないと決めつけ、少年は怒りを募らせ爆発した。
「逃げんなよっ、」
無数の炎が、無防備な常の背中へ向けて飛んだ。
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