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苦くて、甘い
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ピクリと、ベッドの上で指が動く。震える目蓋を見て、青藍は微笑んだ。棗の唇が動き、音にならない空気を漏らす。
「うん、おいしいね、」
もっと、と言いたいのだと感じ、また一粒摘んで口の中へ落とす。
「おい、何をしておる。」
白楊が青藍の言葉を聞き付け、ベッドの方へ移動する。何かを棗の口へ運ぶのを見て、その細くて柔らかな腕を掴んだ。ぽろりと宝石が指から落ち、掛け布団に転がる。青藍は白楊の袖を掴むと、棗を指差して言った。
「なつめ、おいしいって。」
「…お前は食うておらぬだろうな、この宝石は苦いぞ。」
「にがいのきらい。」
残念そうに転がる宝石を見る青藍に別の宝石を与え、白楊は小さな宝石を全て拾うと花を生けてある花瓶の中へ放った。途端に水に溶けて無くなる。
「液体へ返ってしもうたか。」
永く生きる魔物は泣かない。もし、泣く程に心を傾ける事があれば、その涙は宝石に姿を変えてしまうのかもしれない。
「人の身には宝石など美味くなかろうに、」
棗の顔を覗き込み、異物がないか首に触れる。その冷んやりとした指先に触発されたように目蓋が開き、薄茶色の目はぼんやりと白楊を映した。
常は赤月の言葉に従い、急いで屋敷の中へ入ろうと玄関へ向けて駆け出した。しかし、幾らも進まないうちに、背後から迫る気配に気付き反射的に体を捻って地に伏せる。
背中の上を超えた炎が、凄い速さで玄関の扉に当たると、ボンッ、ボンッ、と爆発音を響かせて轟く。弾けた火の粉が頭上から降った。
「うわ、」
「常様!」
「あれ、意外に素早いなあ。」
うかうかしてたら殺される、それは充分に分かっているし、もう既に次の攻撃が迫っている事も承知している。しかし魔物のスピードについて行くなど、唯の人間の身では難しい。赤月が狐火を放つ竜胆を止めようとするが一息遅い。
常は全てを横目で捉え、痛みを覚悟して伏せた体を硬くしたが、手に握った青藍色の羽根がするすると膨らみ常の前に壁を作った。更に一瞬で形を変えて冠羽のある、尾の長い鳥が現れ、向かって来る炎に対して大きく嘴を開ける、
コオォォォォ、
空気を吸い込む音、面白いように次々と炎は口の中へ吸い込まれて行く、幾らも経たずに全てを飲み込んだ。大きな両翼を羽ばたかせて、つぶらな澄んだ黒い眼が竜胆を捉える。その姿は輝く青藍の鳳凰。
ゴゴゴゴ、
腹の中に溜めた炎が喉の奥で鳴る。常には、その物言わぬ怒りが感じられた。そして、初めて見るこの鳥こそ青藍の使い魔なのだと確信している。
「青藍、その火を吹いたら駄目だ。竜胆が怪我をする。」
いや、怪我などと生易しい話ではない。飲み込んだ狐火は鳳凰の力に飲まれ、既に別物になっている。赤月は無言で、伏した常を抱き上げると屋敷の中へ入れようとした、
「赤月、待ってくれ。青藍の使い魔を止めないと竜胆が、」
呆然として、尻餅をつき動けずにいる竜胆が目の端に映る。
「どうなろうと、自分のした事の報いは受けるべきです。御方様に刃を向けるとは、死を持って贖うべき罪なのです。」
「でも、竜胆は俺の事を知らないんだ。…青藍聞こえてるか、俺は大丈夫だからこっちへおいで。」
常が勤めて優しく話す。いつもの様に手を差し伸べると、鳳凰が嘴を閉じ逡巡して常を見詰める。
「ふふ、いつの間に使い魔なんて持ってたんだ。鳳凰なんて、凄いなあ。」
鳳凰は常に褒められ満足したのか、今や格の違う妖力を前にし、すっかり闘志を失くした竜胆を見ると、怒りを収め常の肩にとまった。
「竜胆はナツメの友達なんだ。だから、みんなで一緒に中へ入ろう。」
「常様、その様な事」
「良いから、良いから!だって見舞い客だろ。騒がないなら歓迎する。」
常が鳳凰を肩に乗せたまま、止める赤月に構わずに竜胆へ近付き腕を引いて体を起こす。ついた土を払ってやり、曲がったネクタイとブレザーを整えると、その体を見て頷いた。
「うん、良かったな怪我してなくて。あのさ、赤月は俺を庇った訳じゃないんだ。俺はナツメの家族なんだけど、なあ…果ての屋敷に住んでる紅丸って知ってる?」
「馬鹿にしてんの、魔物でその存在を知らないとか有り得ない。」
「まあ、そうだよなあ。俺さ、紅丸の嫁。」
「え、」
「だから、赤月が本当に庇いたかったのは竜胆の事なんだ。立場上、目の前で俺に攻撃したら見逃す訳にはいかねえだろ。子供可愛さだって、俺には直ぐに分かったけど。」
赤月が苦虫を噛み潰した様な顔をし、口をへの字に曲げてるのを見て常が笑う。竜胆は、びっくりした顔を赤月へ向けた。
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