アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
友達で、秘書
-
「そろそろリンドウが来ると思うから、赤月さんに頼んでおやつでも用意しとこうと思うんだ。甘い物とかが良いよね、黒鉄さんも常も好きだし。」
棗がそう言うのを聞いて、寝ている青藍を抱いた常は、先に布団へ寝かせて来るついでに赤月に言っておくと、一階奥の部屋の大きな外窓への近道を早足で去った。残された二人は休みながらゆっくりと歩く。
「竜胆の事を、不審には感じないのか。」
「え、如何して?」
小首を傾げて問うてくるので、黒鉄は自分の肩程の位置にある赤茶色の頭を見下ろしながら、逆に首を傾げる。
「自分が魔物である事を隠し、大惨事になる可能性が高いのにあの秘術を教えたのは奴だろ。それは気にならないのか、」
「だって、教えて欲しいと言ったのは僕だよ。きっとリンドウは自分の事を簡単に魔物だとは名乗れないから、文献で読んだって言うしかなかったんだろうね。」
棗はあの時の竜胆の様子を思い出した。竜胆は知りたい事は本を読んででも知識を得るべきだという考え方をする、ならば棗が知りたいと思った事を隠そうとは思わなかっただろう。あの秘術を聞いたところで、実行するかどうか決めるのは棗なのだ。
魔物って、つくづく魔性の生き物だって思うね。自分が生き残る為に、身近な人間を犠牲にするんだ。
そう言い肩を竦めて笑っていたけれど、本当は自嘲の気持ちが有ったのかもしれない。
「ふむ。お前がそうして気にせずに付き合えるのなら問題なかろう。」
「問題?何の?」
「あれは、赤月の息子でもあるからな。まあ、宜しく頼む。」
「うふふ。黒鉄さんって、あれこれと気を回し過ぎだよ。大丈夫、これ迄と変わらずに友達だよ。」
棗は笑って頷き、黒鉄が部屋の大きな窓を開いて中に入るように促す。すると、近くの椅子に腰掛けて待っていた竜胆が寄って来た。
「あれ、リンドウ?もう来てたんだ。待たせてごめん。」
「…いや、」
何故か口数が少なく顔色も良くない。元々の白い肌が青ざめて見える。それから、棗の隣に立つ黒鉄を物言いたげに見た。
「何だ、如何かしたのか。」
「あの、黒鉄様…ですよね。」
「そうだが、」
黒鉄が先を促す様に、口ごもる竜胆を見る。棗は二人を見て首を傾げていた、黒鉄は一方的に竜胆を知っている様子だが竜胆の方は初対面で、誰かに聞かなければ名前を知る筈も無いからだ。
「紅丸様が応接間で呼んでおられます。」
「分かった、行ってくる。棗、早目に横になって休めよ、」
「うん。」
迷いの無い足取りで黒鉄が応接間へ向かう。竜胆は棗の隣に立ち、広い背中が消え扉が閉じるのを見てから、ベッドへ向かって棗を支えながらゆっくりと歩き始めた。
身長が低くて体も細くても、さすがに魔物である。自分よりも大きな棗を支えるその足取りはしっかりとしたものだ。
「なあナツメ…、お前が秘術を使ってまで助けたかったのは黒鉄様?」
「えっ、…あの、違うけど。」
「でも、この屋敷に居る魔物の誰かだよな。まさか、父さ…秘書の赤月さんじゃないと思うし。だったら、白楊様?」
うっかり父さんと言いかけた言葉を訂正して、赤月さんと呼び直す。今後、棗の秘書として働くのならば父子の関係は挟まない方が良い。
「え、えっと、何で?」
図星を指されて狼狽えるのを見て、竜胆は益々気持ちが落ち込んだ。
「ごめん、ナツメ。」
竜胆はベッドへ棗を入れると、鞄からノートを取り出してサイドボードの上へ乗せた。遅くなったから帰ると言って、引き止める間もなく出て行ってしまった。
「如何したんだろ。」
間も無く、赤月を伴った常がノックして部屋へ入って来る。
「さっき竜胆が帰って行くのが見えたけど、如何かしたのか。せっかく赤月がおやつを用意してくれたのに、」
「遅くなったから帰るって言ってた。赤月さん、応接間で何か話し合いでもしているんですか。黒鉄さんが呼ばれて行ってしまいました。」
「私も途中で退室しましたので良くは存じません。申し遅れましたが、私の愚息が大学を卒業後に棗様の秘書として働く事に決まりましたので、どうぞ宜しくお願い致します。」
赤月は、内心を見せないいつもの柔和な笑顔で軽く頭を下げた。応接間を気にしている素振りも見せない。
「え、そうなんですか。リンドウは何にも言ってなかった、」
「急な話だったので、折を見て言うつもりだったのでしょう。」
「へえ、竜胆が秘書か!ああ、でも案外いいかもなぁ。ナツメには合ってる気がする。」
常がそう言って、疲れたろうと風呂や薬湯の用意までしてもらっているのだと話しながら着替えの準備をしてくれる。
何故、竜胆が秘術の相手を気にしたのか、そしていきなり謝ったのか…。分からない事だらけだが、また明日も学校帰りに竜胆は寄るだろう。その時にでも聞けばいいかと、棗は歩き疲れた体を風呂で癒そうとベッドを降りた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
112 / 120